新型コロナ禍による水際対策が緩和され、訪日外国人が増加している。観光庁が5月31日に公表した宿泊旅行統計調査によると、4月に日本国内のホテルや旅館に宿泊した外国人は1038万人で、新型コロナ禍前の19年4月と比べて92%にまで戻った。一方で観光地では訪日客の急増に、人手不足を懸念する声も上がる。東京・浅草の「忍者カフェ」では新たに“新米忍者”を雇い、外国人観光客に手裏剣の投げ方や吹き矢などを教えていた。

「ニン!」黒い忍者の衣装を身にまとったアメリカ出身のアーサーさん(30)とポーランド出身のドミニカさん(26)夫婦は、顔の前で手を合わせて「印」を結んだ。初めて日本に来た2人は、東京・浅草の忍者カフェで忍者修行の体験をした。手裏剣や吹き矢のほか刀の居合などをスタッフの忍者から教わり、修行を積んだ。アーサーさんは「良い体験だった。また来たいと思う」と喜び、修行後は写真撮影をしたりと、満喫した様子だった。2人は観光で約2週間滞在するという。

忍者カフェは19年7月にオープンし、今年5月に原宿に2店舗目を開いた。竹谷隼統括マネジャーによると、子ども連れの家族や外国人観光客を中心に人気を集めていたが、新型コロナ禍で顧客が減った。水際対策の緩和などで、1日1組程度だった客足も回復し、3月ごろからは1日に15組ほどが訪れるようになった。

しかし、新たな問題が浮上した。急増した客に対応できる忍者が不足していた。竹谷さんによると、予約を断らなければならないケースもあったという。新しくアルバイトの忍者の募集を始め、浅草店と原宿店で約20人を雇い、営業の体制を改善した。アーサーさんとドミニカさん夫妻の修行を担当した狐面の忍者は、2回目の出勤だった。浅草では新米忍者というが、栃木県の日光江戸村では約2年間、忍者として働いており、忍びの作法は身に付いていた。

多くの外国人が行き交う浅草。ドラッグストアにも訪日外国人の客が増えた。担当者によると、新型コロナ禍の約10倍以上の人が訪れるようになった。アジア人の来店が多く、客の約8割が台湾から。日本の医薬品やお菓子などがよく売れ、1人で40万円近く買う人もいたという。

担当者によると、混雑時の店内ではレジを待つ長い列ができる。スタッフが不足しているといい「言葉が一番大変です。英語や台湾語などの外国語を話せるスタッフはいますが、曜日によってはいない日もある。アルバイトの募集をしてもなかなか集まらない」と頭を抱えていた。インバウンドの復活で、人手不足の課題が浮き彫りに。改善策を模索しているという。【沢田直人】

■「やっと来られた」外国人の声

東京・浅草の雷門の前では多くの外国人が行き交い、記念撮影などを行っていた。訪日外国人に観光の理由や物価高について聞いた。20年以上ぶりに日本を訪れたというカナダ出身のキース・ジョンソンさん(64)は「コロナの前から来るつもりだった。娘も『一緒に行きたい』と言っていて、やっと来られた」と笑顔をみせた。久しぶりの日本では娘のタリアさん(24)と約3週間観光をする。キースさんらは、スカイツリーに向かうといい、浅草を後にした。

ノルウェー出身で経済研究者のエリックさん(39)は12月ごろに日本を訪れた。約1年間滞在するという。エリックさんは高騰する物価や円安について触れ「日本の食品はノルウェーに比べて安い。だけど最近は高くなってきた」と話した。

■訪日客のクレジットカード利用額、20府県でコロナ前上回る

訪日客がクレジットカードを利用して支払った金額が、3月時点で新型コロナウイルス流行前の81%まで回復したことが、三井住友カードの調査で分かった。都道府県別では29府県でコロナ前を上回った。昨年10月の水際対策緩和を受けて訪日客が増えたのが主因で、同社の担当者は「円安で外国人が買い物をしやすくなった影響もあると考えられる」と話す。

三井住友カードの加盟店で訪日客がカード決済した金額を集計し、コロナ前の2019年3月と今年3月で比較した。

都道府県別では、山形と高知、徳島、群馬がコロナ前の3倍超に達した。こうした地域はコロナ前の利用額が少なかったことで増加率が大きくなったほか、大型クルーズ船の寄港などの特殊要因もあったという。

地域差も目立つ。最も減少率が大きかったのは鹿児島のコロナ前比70%減で、鳥取の67%減、島根の57%減が続いた。アジア圏からの旅行者の利用額が減ったという。

コロナ前に中国人の訪日客でにぎわっていた地域も回復が鈍く、大阪は50%減、愛知は48%減だった。中国が日本への団体旅行に対する規制を続けている影響が出たとみられる。利用額を業種別で見ると、コンビニとスーパーはコロナ前の2倍超になった。コンビニでクレジットカードのタッチ決済が普及し、利便性が上がったことが影響したようだ。ホテル・旅館もコロナ前をやや上回った。一方、コロナ前に多くの中国人客が訪れていたドラッグストアはコロナ前比70%減だった。

今後の利用額の動向について、分析担当者は「中国人客が戻るかどうかがポイントになる」と指摘している。