天皇賞・春は3年ぶりの京都開催。新コースになったが難所と呼ばれる外回りの下り坂は健在だ。ここを味方にできる馬はどれか。水島晴之「G1の鍵 その一瞬」は、阪神大賞典2着ボルドグフーシュ(牡4、宮本)に注目した。長くいい脚を使うタイプで、自慢のロングスパートは新京都でより威力を増す。

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阪神大賞典のボルドグフーシュは、流れが向かなかった。前半1000メートルは64秒9。そのうち4回も13秒台のラップを刻む超スローペース。普段は後方から競馬を進める馬が、6番手を追走したことでも、いかに遅かったか分かる。

その分、後半1000メートルはすべて11秒台の57秒9。短距離戦のようなスピード決着となり、決め手が優先された。これでは得意のまくりも決まらない。勝ったジャスティンパレスは、神戸新聞杯でも2着ヤマニンゼストに3馬身半差をつけた「瞬発力型ステイヤー」だ。あの1馬身3/4差は流れひとつで逆転できる。

京都3200メートル(外)コース平面図
京都3200メートル(外)コース平面図

京都は走った経験がないが、適性は有馬記念の走りがヒントだ。残り800メートルまで後方2番手に控え、そこから馬群の大外をまくって、4角でイクイノックスの直後まで進出。最後は突き放されたが、早めに動きながら坂を上がっても止まらずに伸びていた。

このスタミナが「持久力型ステイヤー」の証明。一瞬の脚はそれほどでもないが、惰性をつけてトップスピードに乗る。下りを味方にできる理由が、これだ。坂で加速して角度が緩くなったコーナー、平たんの直線でもうひと伸び。新京都で自慢の末脚はさらに迫力を増す。

また、展開的にタイトルホルダー、アスクビクターモアの有力2頭が前で引っ張る形もいい。ここへディアスティマが絡めば平均以上に流れる。消耗戦の中での粘り合い、しのぎ合いはレコード決着の菊花賞(鼻差2着)で経験済み。坂の下りが戴冠への助走路になる可能性は大きい。

阪神大賞典で2着のボルドグフーシュ(右から2頭目)。勝ったのはジャスティンパレス(左)
阪神大賞典で2着のボルドグフーシュ(右から2頭目)。勝ったのはジャスティンパレス(左)

■ボルドグフーシュ 安定感増す

待望のG1勝利を狙うボルドグフーシュは前走の上積みが見込める。阪神大賞典では不向きの展開の中、地力を発揮して2着。河村助手は「1回使ってピリッとした。状態は上向いていると思う。1年前と比べて、乗ってて安定感が増してきた」と好気配を伝える。初の京都コースも「のびのび走れるコースになるのはいい」と歓迎。今度こそタイトルをつかみたい。

■開幕2週目でも差し馬の台頭

【ここが鍵】

京都の外回りは3コーナーから長く続く下り坂がポイントと言われる。古くは02年菊花賞、03年天皇賞・春を制したヒシミラクル、03年の菊花賞馬ザッツザプレンティが坂を利用したロングスパートでG1を制した。今年は未経験馬も多いが「下り」を上手に走れるか、その見極めが重要になってくる。

しかも、新コースの改善点のひとつとして、外回り4コーナーの角度が緩やかになった。となれば加速しながら回っても以前ほど外へ膨れる心配はない。惰性をつけてそのまま平たんの直線を駆け抜けることができる。逃げ、先行有利の阪神外→内回り3200メートルとは様相が一変する。開幕2週目でも差し馬の台頭を考えておきたい。

■シルヴァーソニック 完成の域に

シルヴァーソニックは7歳を迎えて完成の域に達した。昨年12月のステイヤーズSを勝つと、2月に行われたサウジアラビアのG3(3000メートル)も快勝。長距離では強さを発揮している。昨年の天皇賞・春はスタート直後に騎手が落馬するアクシデントがあったが、カラ馬とはいえタイトルホルダーに最後まで食らい付いて“2位”を確保。京都も【0 2 1 0】と得意で、レーン騎手の継続騎乗も心強い。

■ディープボンド 消耗戦強い

ディープボンドは京都で【2 0 1 2】の好成績を挙げている。菊花賞はコントレイルの4着だが、下り坂でスパートして見せ場は十分だった。阪神外→内回りではペースが上がったところでスピードに乗り切れないが、この条件ならしぶとさを生かすことができる。凱旋門賞後は大外枠の有馬記念8着、阪神大賞典5着とひと息だが、消耗戦にはめっぽう強い。舞台替わりで復活があるかもしれない。

■ブレークアップ ばてない脚

ブレークアップは一戦ごとに力をつけている。阪神大賞典(3着)は流れが向いたこともあるが、最後までじりじりと伸びて、2着ボルドグフーシュに首差まで迫った。切れる脚こそないが先行してばてずに脚を使う。少し渋いところもあり「下り坂」は歓迎だ。ただ、これまでスローペースの競馬が多く、流れが速くなった時に脚をためられるかが鍵になる。