もらう立場から書く立場へ-。今回の「ケイバラプソディー ~楽しい競馬~」は、かつて競馬ファンとして競馬場に足を運び、ジョッキーにサインをもらっていた経緯を持つ古川奈穂騎手(22=矢作)を、マイクこと藤本真育記者が取材。コロナ禍が明けて騎手によるサイン会が再開し、転売が問題になっている昨今。「サイン」への思いを聞いた。

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デビュー3年目の今年、JRA16勝を挙げる古川奈騎手は、競馬ファンからジョッキーになった1人だ。12歳のころ、有馬記念を見て「馬と騎手ってかっこいいな。カメラで写真を撮ってみたい」と魅力に引き込まれた。

初めて競馬場へ行ったのは、13年12月23日のエイシンフラッシュ引退式(中山)だった。その後も一眼レフカメラを持って、競馬場に足を運んだ。今でもスマホのフォルダには、エイシンフラッシュを始め、エピファネイアやロゴタイプなど当時の推し馬の写真がたくさん残っている。そんな「カメラ」をきっかけに通い始めた競馬場で、ウイナーズサークルでサインをもらい、笑顔になっている人たちを見た。

「私もジョッキーにサインをもらいたい」

カメラとともに、色紙も持っていくようになった。騎手を志すまでの約3年間で、武豊騎手、ムーア騎手も含めて10人以上にサインをもらった。その全てを実家に飾っている。「私にとっての原点ですし、とても大切なものです」。騎手になるきっかけを与えてくれた宝物、それが彼女にとっての「サイン」だった。

そんな「サイン」が、大きな話題になった。8月4日、池添騎手が自身のX(旧ツイッター)で「サイン メルカリで売るやついたんでもう書くのやめますね」と投稿。6日には「これからは本当に欲しい方に宛名も入れてサインする事にします」と再投稿。真のファンのため、転売防止策をしてサイン会に応じることを示した。

サインには人一倍熱い思いがある古川奈騎手も、心境を吐露した。

「サインをもらったとき、とにかくうれしかったですし、騎手になったら応援してくれる方のためにサインを書きたいと思っていました。なので、転売はやめてほしいです…」

デビューした21年3月はコロナ対策の規制中で、サイン会はなし。当時から「勝ってサインを書きたいんですよね」と話していた。今年5月、コロナが「5類」に移行し、ようやくサイン会が可能になった。6月の函館で勝って、念願のサイン会を開けた。「連続騎乗だったので少しでしたが、書けました!」。その声はとてもうれしそうだった。かつて得た喜びを今度は自分が届けたい。古川奈騎手のサインには、ファンへの感謝が込められていた。

サインをする騎手は皆、いつも応援してくれるファンのために、時間を割いている。転売目的の人のために、書いているわけではない。ウイナーズサークルが“本当の笑顔”であふれるように、心から願っている。【藤本真育】(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー ~楽しい競馬~」)

自室の壁いっぱいにジョッキーのサインを大切に飾っている古川奈穂騎手(本人提供)
自室の壁いっぱいにジョッキーのサインを大切に飾っている古川奈穂騎手(本人提供)