世界を制した豪脚がうなった。今夏、フランス遠征しG1ジャック・ル・マロワ賞を制したタイキシャトルが、熾烈(しれつ)な2着争いを繰り広げる後続馬とのリードを広げながら悠々とゴールイン、帰国初戦を完ぺきな内容で飾った。圧倒的な1番人気に支持された同馬の優勝で、この秋のG1シリーズ1番人気馬の連敗記録は4で止まった。

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やっぱり次元の違う馬だった。タイキシャトルは世界のG1ホースの力をまざまざと見せつけてくれた。この秋のG1シリーズで1番人気が連敗している嫌な流れや、海外遠征の後遺症などまったく関係なかった。普段より重めの524キロという馬体も何のハンディにもならなかった。ただただ当たり前に、タイキシャトルはゴール板をトップで突き抜けた。

岡部幸雄騎手(50)が「馬ももう慣れてるんだろうね。G1になっても普通でいられる馬は少ないが、この馬はまったく動じない」と言うように、シャトルは平然としていた。スタートはあまり速くなかったが慌てる様子はなく、力強いフットワークでじっくりと追走した。バックストレッチでは内シーキングザパール、外ビッグサンデーにサンドイッチにされる形でやや力んでいたが、3コーナーからの下り坂でスッと力が抜けた。

4角でシーキングザパールが早めに前をとらえにいくのを見て、その外を3番手で回った。「バシッ」。あん上から気合つけの右ムチが入ると、思いのほか伸びないシーキングをしり目に、グングンとストライドを伸ばす。残る1頭、粘るキョウエイマーチも200メートル標識付近であっさりとかわした。あとは世界の脚を披露する独壇場。2着に5馬身差をつける圧勝だった。勝ちタイムは昨年と同じ1分33秒3。

派手なガッツポーズも、フランスで見せた涙もない。岡部騎手にとっては予定された勝利だったのだろう。「この馬は競馬だけでなく、いろんなことを含めてウイークポイントが少ない。それがすごいところ」と目じりを下げた。「人間の思惑で海外とかへとつれ回して、頭が上がらないよ」。シンボリルドルフほか数々の名馬にまたがってきたトップジョキーまでが脱帽するシャトルの強さ。フランスG1制覇、12戦11勝、2着1回のパーフェクト連対、重賞8連勝……。数々の記録を並べたてても、シャトルの偉大さは表しきれない。この馬を負かせる相手は、もはや国内にはいないと断定してもいいだろう。

残念ながら、今年いっぱいで引退、種牡馬になることが決まっている。残るはあと1戦のみ。12月20日に中山で行われるスプリンターズS(G1、芝1200メートル)がラストランとなる予定だ。そのレースでも「競馬に絶対はある」ということを、教えてくれるはずだ。【高木一成】

◆タイキシャトル▽父 デヴィルズバッグ▽母 ウェルシュマフィン(カーリアン)▽牡5歳▽馬主 (有)大樹ファーム▽調教師 藤沢和雄(美浦)▽生産者 Taiki Farm(米国)▽戦績 12戦11勝(海外1勝含む)▽主な勝ちくら ユニコーンS、スワンS、マイルCS、スプリンターズS(97年)京王杯SC、安田記念、ジャック・ル・マロワ賞、マイルCS(98年)▽総収得賞金 5億9098万1000円

(1998年11月23日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時