短距離界の頂上にたどり着いた。荻野極騎手(25)騎乗の8番人気ジャンダルム(牡7、池江)が3番手から抜け出した。直線は早々に先頭。2着馬ウインマーベルの追い上げを首差抑えた。人馬とも初のG1制覇。勝ち時計は1分7秒8。母は02年優勝馬ビリーヴ。20年の時を経て、レース史上初の母子制覇となった。

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強い西日が背中を押す。ジャンダルムの眼前に、爽快な景色が広がった。急坂の上には視界を遮るものなどなにもない。短距離界の頂上。7歳馬と25歳の荻野極騎手がテッペンに立った。「内心、すごくうれしかったんです。けど、あんまり表に出なかったですね」。小さく、軽く左の拳を握る。人馬とも初のG1タイトル。喜びをかみしめるように、穏やかに減速を始めた。

大舞台でも、心は凪(なぎ)だった。中学2年時、空手の型で世界4位に入った。幼少期から週に4、5回の稽古を積む。騎手を目指すはるか昔のこと。鞍上は「いつも普段通りを心がけていたというか。気持ちの起伏を出さないようにしています」と平静の理由を明かす。緊張のスタートもまるで動じず、イメージ通りの3番手を取れた。「頭がいい馬なので、本番で何かしようとする。そこを調教で知っているのは大きかったですね」。静と動。極限まで集中して、直線は激しく追い立てた。

02年優勝馬の母ビリーヴとの史上初の母子制覇達成だ。池江師は「そういう物語の一役を担えたのは誇らしいです。なかなか勝たせてあげられず、ようやく結果で恩返しできました」と話した。今後は協議の上決まるが、母も挑んだ香港など、海の向こうにも登るべき山はたくさんある。荻野極騎手は「これくらいの力はあると前から思っていました。まだ気持ち、体も充実しています。すごく楽しみだと思います」と天にも届く飛躍を願った。【松田直樹】

 

ジャンダルム▽父 キトゥンズジョイ▽母 ビリーヴ(サンデーサイレンス)▽馬主 前田幸治▽調教師 池江泰寿(栗東)▽生産国 米国▽戦績 29戦7勝▽総収得賞金 4億1551万2000円▽主な勝ち鞍 17年デイリー杯2歳S(G2)、22年オーシャンS(G3)▽馬名の由来 アルプス山脈の名峰「アイガー」の絶壁の名