史上7頭目の3冠馬が誕生した。単勝140円の断然人気に支持されたオルフェーヴル(牡、池江)が直線で危なげなく抜け出し、2着ウインバリアシオンに2馬身半差の完璧な勝利を挙げた。池添謙一騎手(32)は史上6人目のクラシック完全制覇。年内はあと1戦の予定で、来年はフランスの凱旋門賞参戦プランが浮上した。走るたびに強さを増す栗毛馬が、日本馬の悲願をかなえてくれるかもしれない。

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菊が咲き誇るゴール板を黄金の馬が突き抜けた。3冠のフィニッシュ。オルフェーヴルが歴史に名を刻んだ。「この馬に乗れて誇りに思う。ありがとうと言いたい」。目を赤くした池添は、何度も愛馬の首を抱いて感謝を伝えた。

道中は中団を追走。1周目3コーナーの坂の下りとスタンド前でハミをかんだ。馬が行く気になってしまったのだ。しかしまだ1周ある。「我慢してくれ、我慢してくれ」。なだめた鞍上の意思をくみ取った栗毛馬は、しっかりと折り合った。暴走の危険を回避した人馬は、2周目の坂越えから進出を開始。そう、先輩3冠馬ディープインパクトと同様の仕掛けだった。4コーナーで前の馬に並びかけた瞬間、ジョッキーは確信した。「もう大丈夫」。直線で先頭に躍り出ると、ファンはその脚に酔いしれた。右ステッキで鼓舞し、皐月賞、ダービーに続く栄光のゴール。決定的な2馬身半差をつけた3分2秒8はレコードに0秒1差に迫る時計だった。

スタンドからの池添コールに、右手を上げて応えた。「騎手としてうれしく思う。僕がもらったことのないものをプレゼントしてくれた」。3冠馬にのみ許される3本の指を、空高く突き上げた。

オルフェーヴルを最高のステージに導いた池添は、元騎手で現調教師の父を持つ。幼少時は、そんな家族ですら驚く競馬好きだった。部屋に武豊のポスターを張り、小学生ですでに「武豊の記録を抜くのは俺」と語ったという。幼稚園から空手を習い、全国大会に出場したこともある。小学生で体操クラブにも通った。すべては「ジョッキーになるため」。当時は調教助手だった父と一緒に、しばしば厩舎へも足を運んだ。オグリキャップや菊花賞馬スーパークリークのたてがみをコレクションし、何度も何度もながめた。今や過去に6頭しかいない3冠馬のパートナー。馬が好きでたまらない気持ちが、大きく成長させた。

年内はジャパンCか有馬記念のどちらか1戦が有力。池江師は来年の凱旋門賞挑戦プランも口にした。「この馬ならと思えるし、本当に夢が広がる。もっともっと活躍してくれると思う」と目を輝かせた池添。信頼する相棒から贈られるプレゼントは、まだまだこれからも増え続けるに違いない。【平本果那】

◆オルフェーヴル▽父 ステイゴールド▽母オリエンタルアート(メジロマックイーン)▽牡3▽馬主 (有)サンデーレーシング▽調教師 池江泰寿▽生産者 (有)社台コーポレーション白老ファーム(北海道白老郡白老町)▽戦績 10戦6勝▽総収得賞金 6億1595万4000円▽主な勝ち鞍 11年スプリングS(G2)皐月賞(G1)ダービー(G1)神戸新聞杯(G2)▽馬名の意味 フランス語で「金細工師」

(2011年10月24日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時