来年2月末に定年を迎える橋田満調教師(70)の連載コラム「競馬は推理 だから面白い」第9回は、日本と海外競馬をテーマとしてジャパンCについてつづった。東京競馬場内の国際厩舎完成や来年からの賞金増額による、さらなる外国馬の来日増加と、日本競馬のレベルアップの可能性について語った。

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サッカーW杯はやっぱり興奮しましたね。競馬は世界各国で大きいレースが開催されています。その中で先日行われたジャパンCの位置付けは、これからより強くなっていくことでしょう。なぜだと思いますか? 理由は2つあるんです。

1つ目は検疫です。今年から舞台の東京競馬場内に、検疫施設を備えた画期的な国際厩舎が開場しました。これまで外国馬は検疫のため、千葉県白井のJRA競馬学校内の国際検疫厩舎に入る必要がありました。小さいダートコースだけでは調整が難しく、競馬場で下見や調教をするにも行ってまた戻らないといけません。自国からの長距離輸送の後に、また何度も移動。これは馬も人も大変です。

私が数年前にディアドラで海外遠征をしていた時、よく向こうの調教師に「日本に来て下さいよ」と話すと「検疫がね…あれは不便だ」と皆さん言うんです。世界のトップトレーナーであるハガスさんやゴスデンさん、JCを連覇しているM・スタウトさんでさえ、そう言っていました。今年からは競馬場内で検疫をしながら、芝やダートで思うように調教ができます。移動も減り、馬のストレスも大幅に軽減されます。

実はこの施策、簡単なことではないんですよ。東京競馬場は開催期間中ですからね。週中の調教は、各国の馬が走るたびにコースの消毒作業が入るなどの徹底ぶりと聞きました。日本の動物検疫上のいろんな問題を解決し、万全の態勢を取っている。これはJRAの努力のたまものです。

2つ目は賞金です。今年から4億円となった1着賞金が、来年は5億円に増額されます。その時の為替レートにもよりますが、総賞金の単純比較ではドバイシーマCを抜いて芝の中距離レースで世界一になります。また、JRAが指定した外国G1の優勝馬(上位馬)が出走した場合は褒賞金も出るのです。JCで1着になった場合はなんと300万ドル。その場合の1着賞金はすごいでしょう。それは外国馬にとって魅力的ですよ。

レースの格はレーティングで決まっていき、どれだけレーティングの高い馬が出走したかが基準になります。なので各国とも、レーティングの高い馬を集めることに躍起になります。近年は外国馬0頭の年もあった中、JRA海外事務所の頑張りもあって今年は4頭が参戦しました。凱旋門賞馬アルピニスタも故障がなければ来ていたでしょう。日本競馬のレベルアップにおいて、その頂点かつ海外からの招待レースがJC。それを世界最高峰にしていくことは大切なのです。

昔は外国馬ばかりが勝っていたJCも、近年は馬場や上がりタイムの高速化もあって日本馬ばかりが勝つようになっています。それは日本馬の競走能力が格段に上がっていることが最も大きな要因です。今の日本のサラブレッドは、世界の頂点に立てるところまできていると思います。だから日本から外国の競馬にも挑戦しているのですが、“日本にももっと多くの外国の素晴らしい馬たちにやってきてもらいたい”。これが競馬の国際化だと思います。外国の素晴らしい馬の関係者に、JCへ合わせたローテーションで出走を考えてもらうための条件は整ってきているように思います。

今回の改革はファンにとっても競馬の楽しみを増やすことになると思います。皆さんは、来年のJCにどんな馬がやって来るのかを推理して下さい。そしてワクワクしながら、あなたがその目で見てみたいと思っているあの馬が日本に来てくれることを想像してみて下さい。(JRA調教師)