05年有馬記念、06年ドバイシーマクラシックなどを制し、05年のJRA最優秀4歳以上牡馬を受賞したハーツクライ(牡22)が9日に起立不能となり死んだ。06年ドバイシーマクラシックの逃げ切りを取材した高木一成記者が当時を振り返る。

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「有馬記念の3番手より驚いた」

レース後、歓喜の輪に包まれた橋口弘次郎師(16年に定年引退)が、満面の笑みの中にちょっとだけ戸惑いの表情をまじえて話したのを思い出す。

前走の05年有馬記念では、意外な先行策を打ち、断然人気のディープインパクトの差し脚を封じ込めた。ただ、それ以前のハーツはどちらかというと追い込みに近い脚質。験を担いで有馬記念当日と同じ青いネクタイを身に着けて臨んだ橋口師も、直線の長いドバイで前に行くとは想定していなかった。“意外”どころじゃない奇襲、奇策…。「まさかハナまで行っちゃうとは」。レース中は不安がよぎったという。

ただ、無敗の3冠馬を完封した実力は本物だった。4角では先行勢が馬体を並べてきたが、直線半ばからはハーツの独壇場。ノーステッキで後続を引き離し、2着に4馬身4分の1差の圧勝だった。橋口師をも驚かせた逃げだが、ルメール騎手はインタビューで「逃げて勝ちたいと思っていた。日本のチャンピオンホースに勝った馬なんだから」と涼しい顔。ディープインパクトを破った自信と誇り、フロックとは言わせないという自負。それらが鞍上により大胆な戦法を選択させたのかもしれない。逃げ粘るのでなく、逃げて突き放す。本当に強い競馬だった。

今年のドバイワールドCデーにも、サウジCを逃げ切ったパンサラッサ、ハーツ産駒のドウデュース、年度代表馬イクイノックスなど日本馬が多数参戦する。当時のナドアルシバからメイダンへ。競馬場は替わったが、天国から日本勢の活躍を見守ってほしい。【中央競馬担当・高木一成】