現役引退のプランを撤回し、来季は英国を離れ、米国を拠点にすることを発表した名手ランフランコ・デットーリ騎手(52)が英国の平地シーズンを締めくくる一戦で“有終の美”を飾った。

1番人気のキングオブスティール(牡3、R・ヴァリアン、父ウートンバセット)との初コンビ。道中は8頭立ての最後方を進み、直線で大外に持ち出されると、最後は先に抜け出していたヴィアシスティーナを力強く差し切り、同馬のG1初制覇を導いた。勝ちタイムは2分8秒42(重)。レース後はスタンドのファンから大歓声とともに、「フランキー」「デットーリ」のコールが飛んだ。

キングオブスティールは今年初戦だった英ダービーでディープインパクト産駒オーギュストロダンの2着。続くロイヤルアスコット開催のG2キングエドワード7世Sでは、のちの英セントレジャー覇者でハーツクライ産駒のコンティニュアスを破って重賞初制覇。古馬と初対戦だったキングジョージ6世&クイーンエリザベスSは3着に好走したが、前走愛チャンピオンSで4着に敗れ、K・ストット騎手が降板し、名手デットーリの手綱さばきに期待が集まっていた。

父の父が日本で活躍したハットトリックという血統で、重賞3連勝中だったフランス調教馬ホライズンドーア(セン3、P・コティエ、父ダビルシム)は3着。連覇を狙ったベイブリッジは最下位8着に敗れた。注目された1頭、モスターダフは馬場状態を理由に出走を取り消している。

この日は王室からカミラ王妃が来場し、レース前には馬にまたがったデットーリ騎手の銅像の除幕式が行われた。同騎手は96年に伝説の「マグニフィセント・セブン」(1日7レース全勝)を達成し、数々の名騎乗をアスコット競馬場で見せてきた。英チャンピオンSは17、18年に連覇したクラックスマン以来となる3勝目。馬上では「ワットアデイ(なんて日だ)」と顔をクシャクシャにして喜び、パドック内のウイナーズサークルでは恒例のフライングディスマウント(デットーリジャンプ)。関係者と喜びを分かち合い、表彰式では家族が周りを囲んだ。

インタビューでは何度も声を震わせた。「エモーショナルです(感傷的になっています)。信じられません。ファンの声援が後押ししてくれました。すべての人に感謝しています。みなさんが勝たせてくれました。ファンタスティックです。愛してます。ハリウッドの脚本のようです。この瞬間をどう感じればいいのかわかりません。これは現実なのでしょうか? レースの序盤は苦戦しました。うまくキングオブスティールを走らせることができなかった。ミカエル(バルザローナ)の馬(ホライズンドーア)が強敵だと思っていましたが、その後、オイシン(マーフィー騎乗のヴィアシスティーナ)がいい感じだと思ったので、彼の後ろにつけました。(直線で)彼らから少し離されましたが、ファンの声援が私の背中を押してくれました。今日の最初のレースからファンは素晴らしいと思いましたが、このときは別次元でした。信じられません。おとぎ話のエンディングのようです。アスコットは私の故郷です」。

「今の気持ちを説明することはできません。これまでに非現実的な瞬間を何度か体験してきました。泣くかなと思ったけど、うれしすぎて泣けませんでした。こんなこと期待していませんでした。ファンタスティックです。なんて日なんだろう。最初のレースから狂ってました。正直、普通じゃなかった。信じられないほど、みんなが私を応援してくれました。これが私の(英国を拠点にして挑む)最後の(アスコットの)レースなので、みんながそうしてくれました。驚きました。(最後の)レースが終わったとき、人々が歌っていました。『オ~、フランキー・デットーリ~』って。(声援は)私の手放したくないものであり、それをアメリカへ連れて行くことはできません。米国では新参者ですから。ただ、思い出深いです。今シーズンは最初からすさまじかった。(レースでは)トップでゴールしようと思ったし、これ以上できないほど、トップでゴールしました。自分のキャリアと今年の驚異的な成績を誇りに思っています」。

感謝の言葉を続けた後は「今からビールを飲みに行ってもいいかな?」とジョークを飛ばし、「水曜に(米国西海岸の)サンタアニタに行きます。気持ちを切り替えて、アメリカに行き、以前に言ったように、そこを拠点にします。(キングオブスティールが現役なら再び騎乗するのかと問われ)今、私は米国での冒険に集中しています。そこで自分のことを知ってもらい、毎日そこにいるつもりです。英国に戻るプランはありません」とキッパリ。多くの感動と興奮を届けた世界一の名手デットーリ、その伝説はまだまだ終わらない。