日本国内でも4競走が馬券発売される米ブリーダーズCウイークが幕を開けた。川田将雅騎手(38)はウシュバテソーロ(牡6、高木)とのコンビで、史上初の同一年ドバイワールドC&BCクラシック(G1、ダート2000メートル、11月4日=サンタアニタパーク競馬場)制覇を目指す。連載「THE Jockey 川田将雅」で日本人騎手の第一人者に迫る。

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息子のことを話す父の声は優しく、そして温かかった。ちょうど2年前。息子・川田将雅騎手が、日本人騎手として初めてブリーダーズC(フィリー&メアターフ=ラヴズオンリーユー)を制覇した。馬上で笑顔を見せる将雅騎手。佐賀競馬場の厩舎のテレビで見ていた父・川田孝好調教師も歴史的な勝利を喜んだ。

孝好師 もう仕事は始まっていたんですけど、サボって見てました(笑い)。勝った瞬間はもう感動です。デルマー競馬場の直線は短いんで、最後はどうかと思いましたが、馬群を割ってきた時は鳥肌が立ちました。日本馬がブリーダーズCを勝ち、その馬の背にうちの息子がいる。目頭が熱くなりました。

小学校高学年の頃から海外競馬に興味を持ち、情報収集を始めた。憧れたのは無敗の英国3冠馬ニジンスキー。「レスター・ピゴット騎手とニジンスキーが大好きだったんです」。インターネットがまだ普及していない時代。少ない情報の中で、ビデオを集め、どんな馬が活躍しているのか調べるのが好きだった。

月日は流れ、長年集めた「世界の競馬」を将雅騎手とともに見るようになった。「世界の中では、やっぱり凱旋門賞とブリーダーズC(が別格)だと思う」。その憧れのレースを、日本人として初めて制したのが息子だった。

そんな息子に、感謝してもしきれないことがある。それは14年の秋。凱旋門賞にハープスター(6着)で挑戦した将雅騎手に同行し、海を渡った時のことだ。

孝好師 「お父さん、ぜひ凱旋門賞に来て」ということで、1週間ほどフランスに行きました。そこで、パリロンシャン競馬場のパドックに立たせてもらったんですけど、最高の気分だったんです。子どものころから興味を持っていた凱旋門賞に、まさか息子が騎乗して、僕もそのパドックに立てるとは夢にも思わなかったですから。あの感激は今でもはっきり覚えています。川田家の悲願ですし、本当に感謝しています。

将雅騎手がウシュバテソーロとのコンビで挑むBCクラシック。勝てば、日本馬も日本人騎手も初制覇。同一年のドバイワールドC&BCクラシック制覇は史上初の偉業となる。父、そして競馬ファンの思いを背負い、息子は再び大一番に臨む。

孝好師 行く以上はもう1度、ブリーダーズCを勝ってほしいですし、勝った姿を見たいです。もちろん本人もそのつもりで行っているでしょう。いい結果が出たら最高ですよね。

わが息子ならできる。そう願って、テレビの前で応援する。(おわり)【藤本真育】