お疲れさま、世界最強馬-。ジャパンCでG1・6連勝を成し遂げたイクイノックス(牡4、木村)の電撃引退が11月30日、同馬を所有する(有)シルクレーシングの米本昌史代表(48)から発表された。一時は年末の有馬記念参戦も検討されたが、天皇賞・秋、ジャパンC連勝の蓄積疲労から、ベストパフォーマンス発揮が難しいと判断。種牡馬入りのオファーを受け入れる形でターフを去ることになった。来年からは社台スタリオンステーションで後世に血を伝えていく。
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幕引きは突然やってきた。シルクレーシングの米本昌史代表が東京・赤坂の同クラブ事務所で同馬の引退を発表した。
「イクイノックスは23年のジャパンCをラストランとし引退、社台スタリオンステーションにて種牡馬入りすることとなりましたので、本日ご報告させていただきます」
続戦すべきか、否か。熟慮を重ねた。ジャパンC終了後、同代表は「あらゆる可能性を検討する」と話していた。思いは揺れていた。天皇賞・秋のレコードVに続き、自身最短間隔の中3週となったジャパンCを4馬身差圧勝。有馬記念参戦となると、再度中3週の綱渡りが待つ。疲労度は? ベストパフォーマンスが出せるのか? 11月28日にノーザンファーム天栄へ放牧に出た後、現場サイドの体調評価などを踏まえて協議をした。「木村師とも話してはいるんですけども、あれ以上のものがあるのだろうか」。最高の走りを見せたまま牧場へ送り返す。同29日に引退を決断した。
「この秋に2つのG1レースを走っただけの疲れが見えている、とうかがっています。ジャパンCのレース後に社台スタリオンステーションより種牡馬として素晴らしいオファーをいただきました。こちらを検討した結果、素晴らしい評価、この上ない評価をいただいているということで、オファーに応える形で種牡馬入りさせることがベストだという判断に至りました」
種牡馬入りオファーの金額については明言を避けたが、「最大規模の評価」と話した。G1・7勝馬キタサンブラックの初年度産駒。10戦10連対、G1・6連勝、前走の勝利で総収得賞金は国内歴代1位の22億1544万6100円にまで積み上がった。この日、JRAから発表されたジャパンCのレーティングは今春のドバイシーマCで記録した129ポンドを4ポンドも上回る133ポンド。現役ラストランは世界最強を示すに十分すぎるパフォーマンスだったことが証明された。
引退式の実施、生まれ故郷の北海道への移動日程に関しては現在、調整中だという。米本代表は「このパフォーマンスがどのくらい子どもに受け継がれるのか楽しみでしかないです」と笑顔で締めた。来年から種牡馬生活を送り、25年に誕生する初年度産駒は27年夏以降にデビューを迎える。イクイノックスは多くの記録を引っさげて、父となる。【松田直樹】
<解説>
イクイノックスはわずか10戦でターフを去る。ただ、4歳で現役引退、種牡馬入りは世界的には珍しいことではない。欧州で英愛ダービーなどG1・5勝の3歳馬オーギュストロダンの来年以降の現役続行は、逆に驚きをもって伝えられた。むしろ欧米の競走馬は勝ち抜け方式であり、実績馬から順に現役生活を終えていく。国内でも3冠馬ディープインパクト、コントレイルなどの超一流馬は4歳でターフを去った。
ただ、珍しいのはイクイノックスが出資会員で構成される一口クラブ所属であるということ。大半は5歳以降も現役を続ける。けがもなく、G1・3勝以上を挙げたクラブ所属馬が4歳で引退するのは初めてのケース。米本代表が「最大規模」と話すほど、それだけ生産界がイクイノックスに与える評価、受ける期待は絶大だ。世界最強にして、唯一無二。父キタサンブラックに肩を並べるほどの人気を種付け生活初年度から見せてくれるだろう。
◆イクイノックス ▼父 キタサンブラック▼母 シャトーブランシュ(キングヘイロー)▼牡4▼馬主 (有)シルクレーシング▼調教師 木村哲也(美浦)▼生産者 ノーザンファーム(北海道安平町)▼戦績 10戦8勝(うち海外1戦1勝)▼総収得賞金 22億1544万6100円(うち海外4億5889万100円)▼馬名の由来 昼と夜の長さがほぼ等しくなる時。