佐賀競馬場で2月11日(日)に、2024佐賀競馬引退競走馬支援推進デーとして「引退競走馬サミット」が行われる。

引退した競走馬がよりよい余生を過ごせるよう、私たちが取り組めることを考える機会とし、引退競走馬支援の活動を知ってもらう機会とする。日刊スポーツではサミットを前に、引退競走馬について考える5回連載を行う。第1回は、サミットにも出席する角居勝彦元調教師(59)が引退競走馬支援の過去・現在・未来についてつづった。

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勝てなかった馬たちが淘汰(とうた)されていってしまうのは、競馬界で暗黙の了解でした。引退した競走馬がどこへ行くのか? 30年以上前に私が調教助手だった頃には、聞きたくても聞けず、それを追うのはタブーでした。

やがて調教師となり、厩舎が軌道に乗った06~07年ぐらいから「結果を出せなかった馬に何か新しい役割をつくれないか」と調べ始め、ホースセラピーの現場を見学しました。ひきこもりや不登校の子供たちのメンタルケアに活用されていて、回復の効果も大きいと聞きました。

行き場を失って処分されないためには、このように人の役に立って“食いぶち”を稼ぐことが重要です。馬を生かすには毎月8~10万円はかかります。この経費をどう賄うかが鍵です。

具体的な活動として、まず11年に始めたのが「サンクスホースデイズ」というイベントです。実演を通じて馬の魅力や可能性を世間に知ってもらいながら、競馬、乗馬、ホースセラピーの各業界がつながっていければと考えました。

19年には栗東トレセンの近くに「TCCセラピーパーク」がオープンしました。ここでは放課後等デイサービスでホースセラピーを活用しています。発達障害のある子供たちにとって、小さな犬猫だとつい乱暴に扱ってしまうことがあっても、500キロほどあるサラブレッドなら力ずくにはできません。乗れば運動にもなりますし、心身両面で良い効果があるようです。

乗馬とのつながりでは、リトレーニングにも着目しました。競走馬は速く走るために精神的にも追い詰められていることが多く、乗馬にするには半年ぐらいの再調教が必要になります。この期間は経済的に“食いぶち”どころかマイナスばかりです。そんな中で16年に岡山県吉備中央町と連携して「吉備高原サラブリトレーニング」が設立されました。ふるさと納税を活用して資金を募り、再調教を請け負う仕組みです。

こうしてセカンドキャリアへの取り組みを進めてきた一方で、たとえば乗馬クラブの馬房数は増えておらず、新しい馬が入ることで代わりに行き場を失う馬も出てきます。肉体面や精神面の問題で人を乗せられない馬もいます。そんな馬たちを救うためにも、競走馬、乗馬に続くサードキャリアが必要になります。

そのモデルケースになればと、調教師を引退する間際の20年に、祖父の出身地でもある石川県珠洲市で牧場を立ち上げました。昨年には「珠洲ホースパーク」がオープンして、ポニーを含めて6頭の馬がいます。まだ地震の影響で受け入れを再開できていませんが、ふれあいや馬遊び以外に、馬を相手にコミュニケーションを学ぶホースコーチングという企業研修プログラムも用意しています。

ほかにも、過疎の耕作放棄地で雑草を食べたり、馬ふんを有機肥料にしたり、人を乗せられなくても活躍できる場はたくさんあるはずです。行政や企業ともタイアップして、馬が活躍することで収入を得て自活できる仕組みをどんどんつくっていければと思います。

競馬は優勝劣敗の世界です。勝者がいれば、それよりもたくさんの敗者がいます。動物愛護の声が高まる現代において、競馬の存在意義に疑問を持たれないためにも“負けた馬”を救う取り組みは欠かせません。それは人間社会で弱い立場の人を支えるのと同じことです。これからも、みなさんのご理解とご協力を頂きながら、活動を進めていきたいと思っています。

◆角居勝彦(すみい・かつひこ)1964年(昭39)3月28日生まれ、石川県出身。競馬に縁のない家庭に育つも牧場勤務を経て86年に栗東トレセンで調教助手に。00年に調教師免許を取得して翌01年に開業。07年に牝馬ウオッカでダービーを制覇。11年にヴィクトワールピサでドバイワールドCを勝利。11~13年にリーディングを獲得。JRA通算762勝(重賞82勝)。国内外で(地方含め)G1計38勝。引退後は石川県で天理教の布教所を継ぎ、引退競走馬支援の活動も続ける。