佐賀競馬場で2月11日(日)に、2024佐賀競馬引退競走馬支援推進デーとして「引退競走馬サミット」が行われる。引退した競走馬がよりよい余生を過ごせるよう、私たちが取り組めることを考える機会とし、引退競走馬支援の活動を知ってもらう機会とする。日刊スポーツではサミットを前に、引退競走馬について考える5回連載を行う。第3回は、引退競走馬の支援やホースセラピーなどの活動を行っている(株)TCC Japanの山本高之代表に活動の現状と、引退競走馬の余生への思いを聞いた。

   ◇   ◇   ◇

引退競走馬が人とともに生きる社会を-。19年5月にオープンしたTCCセラピーパーク(滋賀県栗東市)では、引退競走馬の支援やホースセラピーなどの活動を行っている。運営する(株)TCC Japanの山本高之代表は「引退競走馬の支援活動と、その馬たちと社会事業を作っていこうという2本柱で活動しています」と方針を説明する。人と馬との福祉施設という位置付けだ。

支援活動としては日本で初となる「ホースシェルター」(4馬房)を常設。行き先が決まらない馬や故障を抱える馬の一時的な受け入れ場所となっている。ホースセラピーでは、障害のある子どもたちなどへの療育活動を行っている。「子どもたちの表情の変化などはすぐに出てきますね」と効果を実感。現在は48頭の引退競走馬をかかえ、北は岩手から南は鹿児島まで全国35カ所の乗馬クラブや牧場に預託。活動を支える会員は約2800人を数える。

栗東生まれ、栗東育ちの山本代表は当初、競走馬に対する地域ギャップに違和感を感じていた。「外からだと栗東は馬が居る場所というポジティブなイメージですが、中の市民からすると競馬=ギャンブルなどネガティブなイメージでした。それはもったいないと思い、馬を地域資源として活用するためにどうしたらいいか。馬が社会にとって必要な動物、価値ある動物ということが認知されれば変わっていく」と一念発起。馬の支援と同時に、馬の社会活動をしていくことで、馬の社会価値自体を上げていこうと活動を始めた。

ただ、活動には当然、資金が必要。地元自治体などとも協力体制を構築した。「最初は全然、話も聞いてもらえなかった」というが、少しずつ実績を重ねて理解を得た。ファンクラブからも会費を募り、支援してもらっている。

活動が徐々に広がる中で、もっと間口を広げようと昨年は東京・表参道に「BafunYasai TCC CAFE」をオープン。馬ふん堆肥をテーマにしたコンセプトショップで、都市型の活動拠点を新設した。

山本代表 啓発活動をしていく中で仕方ないところもありますが、馬の居る場所は郊外になりがちです。実馬に会いに行くのもなかなか難しい中で、どうやってより多くの人に知ってもらうか。馬の支援から入るとターゲット自体がそもそも狭いので、発信力の高いエリアでと考えました。人がつながっていくとエネルギーは大きくなる。それも狙いのひとつです。

ショップを通じて活動を知る機会となり、会員同士の交流場所としても活用されている。

人とのつながりを求め、次は観光業にも裾野を広げる。今年は滋賀屈指の観光地であるメタセコイア並木(高島市)の隣地に、新たな牧場をオープン予定。「多くの人に知ってもらうことが一番の解決方法だと思う」。活動の範囲を広げることで、人の輪も広げていく狙いだ。この牧場は全国各地で活躍するTCCの馬たちが戻ってくる場所として、養老牧場の側面も兼ね備える。

山本代表は引退競走馬の余生についてこう考える。 山本代表 非常に難しい問題だと思います。競走馬は引退後の方が寿命が長い。自宅で飼える動物ではないのでスペースもいる。当然、お金もかかります。牛や豚と何が違うのかとよく聞かれるんですが、競走馬は競馬という人間の興行のために生み出している動物。圧倒的に生産目的が違います。自分たちの興行で使えなくなったからといって、それで目的が変わるのはどうなのかと。かつ、競走馬は非常に大きな経済も生み出していますからね。0か100かではなく、1でも2でも3でもいいので。やれることをやっていくべきじゃないかと。思いを持ってやることと、目を背けることは全然違うと思います。

では、引退競走馬のために競馬ファンには何ができるのだろうか。

山本代表 問題意識はだいぶ認知されてきていると思います。次は皆さんが、自分にできることは何かなと考えていただければ。みんながみんな、同じ事をやる必要はないです。おのおのの立場で、できる範囲で、できることをやっていこうということが次に広まっていけば、その次のアクションにつながっていくと思います。そうなるとまた、エネルギーが大きくなると思うので。

人の意識が少しずつ変われば、それに伴って引退競走馬の居場所も少しずつ増えていく。TCCはそんな好循環を生み出していく拠点の一端を担っている。