金言を携え、いざドバイへ-。日本馬23頭が世界の強豪に挑むドバイ国際競走が30日に行われる。海外初取材の東京・桑原幹久記者が連載「ドバイ最前線」をスタート。1回目は昨年のドバイワールドCを制し、連覇を狙うウシュバテソーロ(牡7、高木)を所有する了徳寺健二ホールディングス(株)の了徳寺健二氏(76)に話を聞いた。
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2月中旬、上司から「ドバイに行ってもらう」と声がかかった。慌ててパスポートを探すと有効期限は「13 NOV 2024」とぎりぎり。「10年前の自分、ナイス」とつぶやきながら、25日深夜発の便を確保した。大所帯の日本馬から、主役はウシュバテソーロが担う。ドバイワールドC連覇への思いを知りたいと、了徳寺オーナーの元へ向かった。
桑原 はじめまして! サウジCは惜しい2着でした。
了徳寺氏 去年のドバイと同じく自宅のテレビで見ていましたが、勝ち馬の役者が上でしたね。人事を尽くした結果。パッと前を向きましたよ。
桑原 ドバイワールドC連覇へ自信を深められたと思います。
了徳寺氏 私よりも高木先生や広瀬(了徳寺健二ホールディングス(株))副社長の方が自信を持っていますね。もう7歳で普通なら下り坂なのに、そうじゃないと言っていますよ。
桑原 サウジからドバイへの転戦ですが現地からの報告は?
了徳寺氏 絶好調と聞いています。去年よりもいいんじゃないかと。逆境を力に変えるタフさを持っていますね。
桑原 ものすごい成長力です。17年セレクトセール当歳部門で2500万円(税抜き)で落札されましたが、当時の印象は?
了徳寺氏 当歳にして自立心があって凜(りん)としていて、3拍子ではなく10拍子そろっていましたね。僕が見つけて高木先生に見てもらったら「いい馬ですね」と。今見てもこの馬を選びますね。
桑原 「心技体」とは言いますが、10拍子とは…?
了徳寺氏 それは企業秘密です(笑い)。
桑原 気になります(笑い)。ダート転向後は11戦8勝と才能が開花しました。
了徳寺氏 心身が成熟したことが大きいですね。それと一昨年の東京大賞典は賞金ボーダーのぎりぎりで出走できて、それから川崎記念、ドバイと連勝できました。人も馬も、運を持っているかは大事な要素ですよ。
桑原 昨年のドバイワールドCは大外一気の末脚で差し切りました。
了徳寺氏 正直道中で1度画面から消えた時は「あれ? 大丈夫か?」となりましたよ。でも4コーナーでは中団にいて、これは大丈夫だと。勝った時は何回も頬をつねりましたよ。本当かよ、とね(笑い)。
桑原 連覇を達成すればイクイノックスを抜き、JRA所属馬の歴代獲得賞金トップに立ちます。
了徳寺氏 それは結果としてついてくるものなので意識はないです。ただ自分自身は何事も常に日本一、世界一を目指しているので、挑戦を続けたいですね。
桑原 JRA賞授賞式後には年内引退を示唆されていましたが今後の予定は?
了徳寺氏 BCクラシックに川田ジョッキーの強い意向で再挑戦します。世界最高峰のレースの1つで日本馬強し、というところを見せたいですね。それと進退については現場とも相談していますが、来期への挑戦について高木先生、広瀬副社長から強い要請があります。例えば来年サウジCを勝って、ドバイワールドCを3連覇して終わる、というのもありですよね。とにかくウシュバにとってベストな決断をしたいです。
桑原 わくわくが止まりませんね! 今年はドバイに行かれますか?
了徳寺氏 今年もテレビで応援します。果報は寝て待てと言いますからね(笑い)。
桑原 オーナーの分まで雄姿を見届けたいと思います。最後に現地で戦う人馬へメッセージをお願いします。
了徳寺氏 虚心坦懐(たんかい)。何も考えずに一生懸命、最善を尽くして戦ってほしいです。
取材後、ご厚意で昨年の優勝トロフィーを撮影させていただいた。重さは約14キロもあり、金色のオーラを放っていた。最後はオーナーとがっちり握手。思いを受け取った。歴史的瞬間を目に焼き付けるべく、約12時間のフライトへと向かった。(つづく)
◆了徳寺健二(りょうとくじ・けんじ)1948年(昭23)3月5日、鹿児島県生まれ。高校卒業後、川崎製鉄に入社。柔道部の選手、監督として活躍後に苦学して独立。整形外科、専門学校を経営し06年に了徳寺大学を開学。千葉県柔道連盟名誉会長。15年に馬主資格を取得。16年にリエノテソーロで全日本2歳優駿を制しJpn1初勝利。18年に北海道・日高町の門別地区にリョーケンファームを設立した。
◆ウシュバテソーロの獲得賞金 現時点で歴代4位の18億7631万700円。ドバイワールドCで1着(696万ドル=約9億8414万4000円)ならもちろん、2着(240万ドル=約3億3936万円)でも、イクイノックスの22億1544万6100円を抜いて歴代1位となる。(フランスギャロ発表の24年公式レート1ドル=141・4円で換算)
◆昨年のドバイWC 日本馬は8頭参戦。最後方追走となったウシュバテソーロは3角過ぎに進出し、直線で外から一気に末脚を伸ばした。先に抜け出したアルジールスを捉えると、残り100メートルからは独走で2馬身3/4差の完勝。ダートで行われたドバイWCでは日本調教馬初制覇。