ドバイ出張は波乱? のスタートです。

入社10年目で初の海外取材。英語はまるで苦手で、現地空港到着後もドバイレーシングクラブの案内係に「アイム、ジャパンメディア」を連呼。引きつった笑顔で高級車に連れて行かれると、道に疎い新米? ドライバーから“スリルドライブ”の洗礼を浴び、若干ふらつき気味にメイダン競馬場へ到着しました。

天気は曇り。午前7時過ぎで気温22度ほどでしたが湿度が高く、プロ野球担当時代のキャンプ取材を思い出しました。壮大な作りのスタンドに圧倒されながら、プレスルームに到着。しばらくするとドバイワールドCデーに参戦する陣営の記者会見が始まりました。

出席者はダグ・ワトソン調教師。UAEでリーディングトレーナーを何度も獲得し、最優秀調教師にも選ばれた名伯楽です。会見に耳を傾けていると「カビールカーン」との単語が聞き取れました。16年に父カリフォルニアクロームが制したドバイワールドCに出走する4歳牡馬で、地元勢の最右翼。11戦10勝という戦歴もさることながら、カザフスタンでデビューし、ロシアでも連戦連勝。UAEに移籍後もメイダンで2戦2勝と強さを誇っています。師も「どんな場所でも楽しく走れること。それ彼の強みだね。すごくラブリーな馬だし、ファンが多いことを誇りに思うよ」と会見で笑顔を見せていました。

実は現地到着前からカビールカーンが気になり、師への取材チャンスを狙っていました。これ以上ないタイミングだ! と思い、会見終了後に突撃。「ハロー。ジャパニーズメディア、ニッカンスポーツ…」と恐る恐る声をかけると「オー! OK、OK」と笑顔で握手。快く取材を受けてくれました。

-状態は?

ワトソン師 グッド! 先週日曜に強く追い切りをしたけど、いい動きだった。月曜も行きっぷりがよくて元気いっぱいだったよ。

-カザフスタン、ロシア、UAEと異色の経歴が目立ちます

ワトソン師 デビュー戦の馬場を見たかい? すごくタフな状況だったけど、彼は楽しそうに走っていた。ロシアでも同じ。だからここでも楽しく走れるんだ。特に前走は少し出遅れたけど、ジョッキーが促したらすぐに馬群に取り付いて、4コーナーは馬なりで先頭に出るくらい。彼は走ることが大好きなんだろうね。

-長所は?

ワトソン師 ペースに惑わされないことだね。どんなペースでも自分のリズムで走れる。だから相手が変わっても自分の力を発揮できるんだ。

-日本からは前年王者のウシュバテソーロが今年も連覇を狙います。勝つ自信は何%?

ワトソン師 ノーノー!(苦笑い)まだステップアップしている途中だよ。(指を折りながら)ウシュバテソーロ、デルマソトガケ、ニューゲート、セニョールバスカドール。この4頭が強いよ。どれかが勝つと僕は思うよ。

つたない英語に身ぶり手ぶりで、分かりやすく受け答えをしてくれました。最後は「アリガトウゴザイマス。センキュー!」と日本語を交えて頭を下げながら去って行きました。

ワトソン師の優しさに一瞬目がうるっとしましたが、予想に向けて貴重な情報をゲット。師が話すように一気の相手強化は最大の懸念点ですが「楽しく走れる」「どんなペースでも自分のリズムで走れる」という武器を生かせるホームコースなら…。「波乱を起こすならカビールカーン。ホームアドバンテージで一発は十分にありそう」とメモを残しておきます。【桑原幹久】