つい、こんなフレーズが脳裏をよぎった。「イタリア映画好きに悪いヤツはいない」。誰が言ったのか、何で読んだのか、まったく覚えていないが、妙に納得したのを思い出す。ラストシーンで愛とは何かを突きつける「ニュー・シネマ・パラダイス完全版」も、戦乱に翻弄(ほんろう)された人生を描いた「ひまわり」も、ユーモアで反戦を唱える「ライフ・イズ・ビューティフル」も色濃い人間模様を描く。

スクリーンに映る人たちの喜怒哀楽に胸を揺さぶられる。そんなロマンに共鳴した者たちが冒頭のような文句を育んだのだろう。さて、矢野阪神も6月の交流戦に入ってから、映画に負けず劣らず、筋書きのないドラマを連発する。9日日本ハム戦で原口がサヨナラ打を放った試合後の会見中、ついに矢野監督が男泣きした。この話題に藤原崇起オーナーが、なんとも含蓄のあるコメントを残した。

「いいと思う。一生懸命やるから泣くんでね。泣くっていろいろあると思う。みんな一生懸命やっているのを見ているから自然とうれしくて。いろいろの涙ってあるんじゃないですか」

そう話して、自ら切り出す。「映画でそんなんありますから。昔『道』っていう映画があったでしょう。最後、サーカスの団長が泣くじゃないですか。なんで泣くんやと。泣くしかない、っていう」。映画界の巨匠、イタリアに生まれたフェデリコ・フェリーニ製作の「道」を引き合いに出した。粗暴な旅芸人の男が、純粋だが機転の利かないアシスタントの女を見捨て、最後の最後、何に気づいたのか。ともあれ「泣く」というしぐさから、とっさにこの映画のラストシーンを挙げるあたり、藤原オーナーのロマンな一面を見た。

大腸がんから不屈の復帰を果たした原口を中心とした、ハートウオーミングな6月の阪神戦線。そういえば、交流戦が開幕して、矢野監督は言っていた。「交流戦の頭で、何かムードをリセットするなかのプラスアルファでフミを(1軍に)呼んだ部分もあった」。心憎いまでの演出である。【酒井俊作】