全国で球音と歓声が響くはずの黄金週間。選手もファンも、今年は球場に足を運ぶことすら許されない状況が続いている。心ひとつに乗り切れば、野球のある日常は必ず戻る。角度を変えて切り取りながら、その力を再確認してみた。
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上越新幹線を降りる、グレースーツの男性を知っていた。目が合うと、大宮駅ホームで記事を書く私に、笑顔で近寄ってくる。右手を差し出された。
「来年、ロッテ担当でしょ?」
ロッテ榎康弘スカウト(47=現チーフスカウト)だった。昨年10月末、ともに高校野球関東大会での仕事後。ドラフト会議直後の時期で、私が1位指名の佐々木朗希投手を追って1年間岩手に通い詰めたから、そう思われたのだろう。
自分でも、そうなる予感と覚悟があった。同時に、翌年もアマ野球担当を続けたい気持ちもあった。やり残した仕事もある。人事異動はサラリーマンの宿命。事情なんて、誰にだってある。12月の異動発表までモヤモヤは続くのか…結構悩んでいた。
半年たっても忘れない。揺れる思いを止め、1点に定めてくれるような力強い感触だった。そして、この上ない笑顔。何度も話したことがあるわけじゃないのに。純粋にうれしくて「よし!」と心を決めることができた。
プロ野球の世界は、握手がとても多い。年明け、ロッテ首脳陣へのあいさつでも、何度も右手を差し出された。榎スカウトは「WBCや五輪で同じチームで戦うようになって、交流が生まれて、そこから増えたのかもしれません。あいさつ代わりみたいに」と考える。強く握るコーチ、絹のように優しく包むルーキー、握手ではなくグータッチを求めてきた選手。性格や人生哲学まで、手のひらの表情から垣間見える。
照れも何もなく、真っ向からスッと差し出す-。社会がこういう状況になり、尊さが身に染みる。ファンと選手の直接交流の場も、2カ月以上失われている。応援されることのありがたみを再認識した選手も多く、自発的な発信も増えてきた。心を1つにしたい人たちと、気兼ねなく握手できる日が戻ることを信じて。【金子真仁】




