「サイン盗み」を議論する元高校球児の討論会。2回目は、彼らがいかに緻密に野球を練り上げ、対策を立てていたかを掘り下げる。その上で、野球人として根底に流れている考えを聞いた。【特別取材班】
- 討論会の出席者
-試合前の対策はどうしていたか
D 地方予選で次の対戦相手が決まったら、ベンチ裏、一塁側、三塁側に分かれて試合観戦。それぞれに分析をして対策しました。
B わざと離れて座って、相手チームのサインを見るんだよね。
C 帰ってみんなで答え合わせ。
ロ パズルを解くみたいなんだね。
-試合中、途中でサインを変えられることもある
C いったん、ゼロに戻して。また次のサインを解読します。
B 試合中なら、それはベンチの仕事ですね。
A 見抜いた方がスゴイ。だから、こっちも見抜かれることを踏まえて対策をしないといけない。
C 駆け引きですよね。バレたらバレたで違うことをやればいいだけのこと。
A クセが分かって、サインを出しても打てない好投手もいます。いっても高校生ですから。
C 中にはサインは必要ないという人もいます。
A 分かっていたら、力むから打てないって。
イ 打席に入って、打つ確率を知った方が打てるのか。知らない方が打てるのか。パーセントの話なんやな。サインを見たから汚い、クリーンにやりたいから見ないっていう話じゃないかもしれないですね。
A でも、バレる前提で対策は練りますよね。
- 座談会で「サイン盗み」について話す元高校球児たち
イ 1がバレたから2、次は3でいこうって?
A バッテリー間でサインを増やすとか。出し方を変えるとか。3イニングごとに変えたり。
イ その時間あったら練習しろや(笑い)。
C あえてサイン盗みをしようというわけじゃなくてプラスアルファですよ。
ロ 話を聞いていると、何が健全か分からなくなります。教育っていう意味では、こういう経験をしている方が、社会の荒波を生き抜く力は強い気もします。
A 免疫力はあるよね。
イ でも、尊敬はできないな。
A 尊敬されなくても、当時の僕らにとってはそれが1つの武器だったから。
B 彼女とデートもせず、コンビニにも行けず。一切遊ばずに野球に費やしてきた。それが生きざまというか。正しいか間違っているかは、いろいろな考え方があると思います。
イ 勝つための確率を上げるための方法やから。僕らは違うアプローチの仕方で頑張って上を目指したチームだった。そこはチームの色。いいとか悪いとかという判断は難しいね。
A 勝ちを求めるから、結果が全て。そのための方法論だったのかな。
-サイン盗みをしていたら、もっと結果は違ったという気持ちはあるか
イ 全くないですね。それでも負けは負けなので。
ロ 僕は逆にそんな細かいところで野球をしていたのか、と。1人だけ取り残された感じです(笑い)。
A 当時、何をやっていたにしても、今一緒に当時を振り返って話せる。それは同じ野球人。その大きな共通点があるから、和やかに話せるんだと思います。
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討論会を終え、真っ先に「プライド」という言葉が浮かんだ。どんな形であっても、甲子園の頂点を目指した熱い思いは変わらない。そうせざるを得なかった当時の事情、環境もあるだろうが、誰もが当時の自分たちには「プライド」を持っていた。不動の共通点があるからこそ、卒業して歳月を経た今、何のわだかまりもなくざっくばらんに話ができるのだろう。繰り返された「ルールがあれば」の言葉通り、高校生に決定権もなければ、責めることもできない。だからこそ、大人の公正な判断が必要なのだと感じた。(つづく)