日刊スポーツ芸能担当記者(36)が出場した「マスターズ甲子園」をルポする。

市浦和対岐阜県選抜 一塁の守備に就く市浦和・広瀬毬子(撮影・上田博志)
市浦和対岐阜県選抜 一塁の守備に就く市浦和・広瀬毬子(撮影・上田博志)


5回裏、捕手として守備に就くと、3連打などで1死満塁のピンチを迎えた。1時間30分の時間制限も頭をちらつく中「楽しんでいきましょう!」と甲高い声が聞こえてきた。

一塁手の広瀬毬子(18)だ。広い甲子園にも響く声に、こちらも平静を取り戻す。遊ゴロ、三ゴロに打ち取ると、広瀬は野手からの送球を軽快にさばき、スタンドから拍手が送られた。

マスターズ甲子園で、高校時代に女子部員だった選手がプレーするのは初めて。現状では、女子の公式戦出場は認められていないが、広瀬は高校野球に憧れ、男子とともに汗を流してきた。「甲子園は立てるところだと思っていなかった。ただ好きなことを夢中でやってきて、こんなことが起きるんだと思いました」。

性別だけでなく、さまざまな壁を乗り越えられるのが、大会の醍醐味(だいごみ)だ。

18~67歳の選手で大会に臨み朝焼けの甲子園で写真に納まる市浦和OB
18~67歳の選手で大会に臨み朝焼けの甲子園で写真に納まる市浦和OB


◆世代を超える 今大会は16チームで18~86歳の722人が登録された。高校時代をともにするのは前後2~3学年で、それ以上の縦の関係は築きにくい。市浦和は1988年(昭63)、昭和最後の夏の甲子園に初出場し4強入り。その後春夏通じて出場はなく、母校のレジェンドたちと、同じ目標を持ってプレーする楽しさがある。

当時の監督で、今回打席に立った中村三四(67)は「直接の教え子ではない選手とも、一緒にプレーできるのはうれしい」と話す。実行委員長の長ケ原誠神戸大大学院教授は「横だけじゃなく、縦のつながりも作れるのがスポーツのおもしろさ。母校のためとか、何か1つの目的を持って取り組むことで、現役生の後押しにもつながります」。

◆キャリアを超える 今大会には、PL学園(大阪)の桑田真澄(51=元巨人)冨田康祐(31=元DeNA)をはじめ、国府(愛知)市川和正(61=元大洋)、東陵(宮城)相原和友(30=元楽天)ら元プロ選手も参加。各地方予選でも、地元のスターとの対戦が実現している。桑田と対戦した利根商(群馬)の林博明(52)は二飛に倒れたが「桑田さんとは同級生。夢がかないました」。

◆思い出を超える 年齢を重ねても「甲子園」を目標に本気になるから、ドラマも生まれる。今回の甲子園出場を決めるサヨナラ打を放った成田隼也(38)は1カ月前、来年以降の出場を目指す予選の試合中に右アキレス腱(けん)を断裂。松葉づえ姿でベンチ入りしたが、試合後「やっぱりみんなと立ちたかった」と涙を流した。記者はじめ、チームメートもウルウル…。「再び甲子園へ」。まだまだ青春は続きそうだ。(敬称略=この項おわり)【大友陽平】

●マスターズ甲子園主なルール 出場選手は部員、監督ら野球部関係者のOB・OGに限る。現役の大学・社会人、プロ野球関係者は出場できない。各都道府県の予選を勝ち上がった1チームや、各県の選抜チームが本大会に出場。本大会は、3回まで34歳以下のチームで、4回以降を35歳以上のチームで戦う。試合時間は9イニング、もしくは1時間30分で打ち切り。投手は2イニング以内まで投球可。