野球の国から

相性は不思議な野球の面白さ 逃げては何も残らない

<小谷の指導論 ~ 放浪編14>

現役時代の経験から、一流の打者には自分のストライクゾーンがあると書いた。王貞治さんもそうだったが、長嶋茂雄も独特のゾーンを持っておられた。

04年2月、ブルペンで横浜佐々木(右)と話す小谷正勝投手コーチ
04年2月、ブルペンで横浜佐々木(右)と話す小谷正勝投手コーチ

インコースが高めにボール1個か1個半、ずれていた。いわゆるツボで、投げれば高い確率で打たれた。だから、長嶋さんとの対戦ではアウトコース、それも低めにしか投げなかった。

独特の感性、オーラを持つ方で狙いが読めなかった。ある時、長嶋さんが「小谷が出てきたら、カーブしか狙っていないよ」と言っていたと人づてに聞いた。確かにカーブピッチャーと自負し、多少の自信はあったが「本当か?」と耳を疑った。「打たれて当たり前」と開き直って勝負していたので、思い切り腕を振って真ん中に直球を3つ続けたら、本当に見逃された。通算は30打数の7安打。ホームランを打たれたことはなかった。

本当にいい打者は、打てるところしか手を出してこない。だから、2ストライクまでは相手が振ってこないところに投げた。どんな打者にも、どこかに必ず欠点はある。勝負にいく時には、自分の一番いいボールを相手の弱点に「これでもか」と投げていた。

大洋、横浜で指導した佐々木主浩は直球とフォーク、盛田幸妃は直球とシュートの2球種しかなかったが、一時代を築けたのは一級品のボールを弱点に投げられたから。彼らは逃げずにどんどん勝負していった。一流の打者に失投は禁物だが、コースに入っていけばそう簡単にホームランにはならない。

一番、やってはいけないのは逃げること。逃げては何も残らない。大したボールがなかった自分は、例えばカーブでも真上、スリークオーター、サイドなど腕の角度、曲げ幅を自分で調整し、同じ球種でも違う球種に見えるように工夫した。どうすれば抑えられるかだけを考えたので、周りからは異端児と映っただろうが、勝負に勝つすべの1つだった。

昨年まで在籍した巨人に「気持ちが強い子だな」と思った投手がいる。2年目の沼田翔平である。

ルーキーながら負けん気が強く、マウンドでは絶対に逃げない姿が印象に残った。打たれても打たれてもストライクを投げる。19歳で大したもんだなと思った。「打たれて勉強しろ」とは思わないが、勝負にいかないことには始まらない。

それでも、どうにもいかない時もある。中日の谷沢健一にはどこに投げてもヒットを打たれたし、高木守道さんには何を投げてもバットの芯で打たれた。一方で、ヤクルトの福富邦夫さんからはなぜか三振が多く取れた。ボールとバットの軌道に接点がなかったのだろう。相性というのは不思議なものだが、野球の面白さでもある。(次回は7月下旬掲載予定です)

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