インターネットでのプロ野球の動画配信は今年、一般的になった。テレビと同じ試合の中継、ハイライト動画ならコンテンツを流用すればいい。だが、テーマを絞ったもの、携帯に特化させるなら、野球への知見や編集の技術が必要になる。11月に開催された「野球動画クリエイター選手権」は、新たな人材発掘の場となった。業界の現状と併せてルポする。

審査員を務めた森本稀哲氏(中央)。テレビ画面の中はオンライン中継された参加者
審査員を務めた森本稀哲氏(中央)。テレビ画面の中はオンライン中継された参加者

決め手は「野球愛」だった。今季のパ・リーグTVの素材を使った「野球動画クリエイター選手権」。応募約100組の頂点に立った動画は、コロナ禍での象徴的なシーンを編集した2分51秒。開幕戦、観客を入れた初戦のサヨナラ弾2本、西武森の涙、楽天内田の満塁本塁打、ロッテ沢村の登板など。審査員の森本稀哲氏(日刊スポーツ評論家)は「映像から野球愛、パ・リーグ魂を感じた」と評価理由を説明した。しゃれた音楽に格好良さを追求した他作品を上回った。

優勝した武藤貴将氏は、9月末のシルバーウイークをすべて費やし、今季のほぼ全試合を見直したという。話題となったシーンを1つ1つ丁寧に掘り起こし、実況を組み合わせた。だが、普段は映像編集とは無関係な一般の会社員だ。準優勝の作品はソフトバンク周東、ロッテ和田、日本ハム西川の盗塁王争いがテーマで最多16万回再生された。こちらの作者・中島響氏は、映像編集を始めてわずか6カ月だ。編集ソフトやYouTubeの普及で、技術的なハードルは下がっている。

若年層の野球離れは深刻だ。中学の軟式野球部員は、この10年でほぼ半減。地上波のテレビ中継が激減した。大会を主催したパシフィックリーグマーケティングの園部健二氏(36)は「ライト層に対して野球の面白さを届けなくてはならない。(パ・リーグTVの)会員になってくれればいいが、広く見ていただきたい」と危機感を募らせる。

パ・リーグTVは今年、放映権を初めて米国のケーブルテレビ会社「For the Fans」に販売した。海外では台湾、韓国(15年のみ)に続いて3地域目。北米では初で現地では昼夜逆転となるが、MLBの開幕が遅れ、契約数は想定の3倍だった。それでも、全米ネットのESPNで先に放送開始した台湾、韓国プロ野球ほどの注目は集めなかった。一方でパ・リーグTVのYouTube公式チャンネル登録者は、昨年から倍増。活路をネットに見いだすのは当然だった。(つづく)【斎藤直樹】