5月20日は王貞治氏の誕生日である。80歳。傘寿だ。ソフトバンクホークス会長と言うよりも「世界の王」のほうが通りがいい。

昭和40年代に少年時代を送った側からすれば、まさにスター。記者になってもトシを取ってもいまだに球場でその姿を見掛けると緊張してしまう。

残念ながら、じっくり取材したことはもちろん、ちゃんと話をしたこともないのだが、妙に印象に残っている場面がある。

96年か97年か。神戸でのオリックス-ダイエー戦が雨天中止になった。当時、オリックスは球場のそばに室内練習場を持っていた。現役だったイチロー氏が住んでいた合宿所「青濤館」も隣接していた。

オリックスの練習が終わる頃、当時の王監督率いるダイエーがやってきた。ウオームアップを始めた選手たちから離れ、王氏が駐車場に出てきた。オリックス選手、関係者のクルマが止まっている。それを見渡した後、王氏はこう言った。

「みんな、いいクルマ乗ってるよなあ~。うん」

のんびりした調子で笑顔を浮かべながら独り言のように口にした。

時代が変わってもプロ野球選手と高級車の関係は深い。普通の勤め人では買えないようなクルマを若くして乗りこなす。それがプロ野球選手のステータスなのはずっと同じだ。

王氏の様子は、どの時代でも球団でも野球選手のスタイルは同じだな、と実感しているように見えた。

高級車に乗るには当然、多大な金銭が必要だ。リースだったり、実はいろいろと手段があるのはそうなのだが、やはり高い報酬の裏付けとされる。

コロナ禍の中、プロ野球は開幕へ視野が少しずつ広がってきた気もする。だが開幕できても無観客試合でのスタートは確実で試合数も減るだろう。球団の収入も当然、減る。

そのとき選手の年俸がどうなるか。ファンに直接、関係はないが必ずクローズアップされてくる問題だ。実際に大リーグではすでに年俸削減問題が話題になっている。日本ではどうなるだろう。

中心選手とファームの若手では収入面で雲泥の違いがある。それでも高級車に象徴されてしまうのがプロ野球選手だ。

ファンの夢を壊さず、球団側も選手側も納得できる形で未曽有のシーズンに対応してほしい。取り越し苦労に終わればいいが、こういう問題でもめるのは見たくないと今から思う。