7月後半の球宴ブレークで、阪神監督の岡田彰布に聞いた。「後半戦、カギを握る選手は?」。こちらの予想は佐藤輝、大山かと思っていた。すると岡田は即答した。「そら近本よ。1番近本はこれから動かすことはない。いかに本来のスタイルに戻すか。ここがポイントになるわな」。

あれから2週間。8月4日のDeNA戦で近本が固め打ちし、今シーズン100安打を記録した。阪神に入団して6年。連続して100安打以上を打ち続けているのは立派。令和のヒットマンはいよいよ状態を上げてきた。

特に「1回」の攻撃である。表でも裏でも、いきなり近本がヒットで出るケースが増えた。そこで岡田は手堅く点を取りにいく作戦に出る。2番中野に迷いなく送りバントを指示する。いきなり相手にひとつアウトを与えるのはもったいない…なんて声もあるが…。「そんなん、関係ないわ。これがウチの野球や。いきなり先制することの重要性。これがチームとしての形やし、先発投手にも好影響を与える」。勝負の時期に差しかかり、おもしろい野球、おもしろくない野球なんて論評は関係なし。かたくなに1点を取りに行くことで、阪神のスタイルが固まった。

それを証明する数字がある。2番中野の犠打数だ。球宴明けから極端に増え、リーグ最多の「20」を数える。現状で2桁犠打は中野だけ。ここにきて近本、中野の連動がスムーズに行われていることが、数字上からもわかる。

安打だけではなく、近本は四球での出塁が多い。リーグでは2番目の多さだ。ヤクルト村上の73四球は別格だが、その次が近本の「47」。これは巨人岡本よりも1つ多い。安打プラス四球で出塁率も上昇し、阪神の得点パターンが昨年並みになってきた。

球宴までの近本の打撃内容は、らしくはなかった。無理して飛ばそうとして、打球は上にあがることが多かった。いわゆる凡飛なのだが、それが変わってきた。野手の間を抜くゴロヒット、ライナーで返すヒットが多くなり、打席でドシッと構える落ち着きも。追い込まれても焦ることもない。ストライク、ボールの見極めが鮮やかにできるようになり、相手バッテリーを追い込む。近本スタイルは阪神打線の起爆剤。岡田の読み通りに事は運んでいる。

2021年に近本は最多安打(178安打)のタイトルを獲得している。今シーズン、タイトル奪取は難しいだろう…という前半から、いつの間にか射程圏に入った。8月5日現在、リーグ最多安打は中日細川の106。もう目の前に迫ってきた。

クリーンアップの得点力が見違えるほど上がった今、近本は大きいのを捨てた。「ヒットが出るということは、いい打ち方をしているから」。岡田が認める近本の上昇度。これからも安打量産の一択で打線を勢いつける。実力派1番バッターはタイガースの生命線であり、監督の思惑通りに進んでいる。【内匠宏幸】(敬称略)

DeNA対阪神 3回表阪神1死一塁、二盗を決める近本(2024年8月4日撮影)
DeNA対阪神 3回表阪神1死一塁、二盗を決める近本(2024年8月4日撮影)