小雪が散る中、苦しそうな表情で箱根の山を駆け上がる向上ナイン(2018年12月28日撮影)
小雪が散る中、苦しそうな表情で箱根の山を駆け上がる向上ナイン(2018年12月28日撮影)

第95回東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)の往路が2日、終わった。今年も山登りの5区では、順位の変動が目立った。

実は昨年12月28日にここで「前哨戦」が行われていた。向上(神奈川)の2年生38人が小田原城を出発し、過酷な山へ駆け上がっていった。

20年近く行われている、同校野球部の年末恒例トレーニングだ。交流がある小涌谷の児童養護施設「箱根恵明学園」まで15キロ強、標高約700メートル分を登る。ナインはこの日までの3日間の合宿で約100キロを走り、ハードな箱根で総決算。体力や精神力、結束力を高める。

平田隆康監督(44)にはもう1つ目的がある。「答え合わせ。確認作業です」。新チーム発足から5カ月。1年生を加えると87人の大所帯で、1人1人を見つめてきた。「箱根の山は未知への挑戦。本当に苦しい時にこそ、人間の本性が出ますから。ここでも頑張れる子は本当に強い」。

おもてなしの心を学ぶため、部員全員を東京ディズニーランドへ連れて行くこともある。普段は優しい兄貴分でもある平田監督が、年末は真剣な顔つきになる。歯を食いしばり、白線内の歩道をぶれずに走るナインに「いいぞ、頑張れ!」と車から叫ぶ。

県内公立校の野球部も、同じ時間帯に箱根を走っていた。塚本宙選手(2年)が、歩きかける他校の選手グループを抜かした。でも突き放せない。逆に再び抜かれる。必死に食らいつく。昨秋は背番号17。1ケタを目指しつつ、メンバー外からは追われる立場だ。塚本は「みんなでつらいことを一緒にやっている。絶対に乗り越えないと」と奮起し、再び抜き返した。「今日の経験を人生でもプラスにしたい。自分に打ち勝てるように」。これまでの努力という「たすき」を、未来の自分につないだ。

駆け抜けた全員が、山の神に見えた。しかし平田監督は、ほほ笑みながらも「今日の走りでも、やっぱり1人1人のいろいろな面が見えます」と言う。苦難に勝った選手への情に流されず、指導者の視点を貫く。悲願の初甲子園へ、本気を感じた。【金子真仁】