東京五輪の開幕前、いくつか関連インタビューをした中で、印象に残った言葉がある。

「小さいころから五輪を目指して競技をやるっていう感覚は、野球選手にはない。プロ野球選手は目指すんですけども。個人競技と違って、五輪を目指す土壌が日本にはあまりない。そういう部分では、ちょっと独特な競技なのかなと思います」

実際に過去の大会でメダルを獲得した、元プロ選手の言葉だ。そう言われたらそうだな、と納得したけれど、言われるまで考えたことがなかった。

野球担当になる前に、卓球の伊藤美誠、平野美宇両選手を取材したことがある。当時8歳と9歳。見た目こそ小さな女の子だったが、2人とも小学生のうちから「五輪で金メダル」を将来の夢に掲げていた。

東京五輪には、その一瞬のために4年間を、もとい、人生をかけてきた人たちが大勢出た。遠征費をはじめ、長年競技を続けるにはトップクラスの選手でも金銭的に苦労することは多い。対して侍ジャパンはプロの集まりだ。既にプロ野球選手になる夢をかなえ、ファンも収入も多く、毎日練習するのは「ペナントレース優勝と日本一」になるため。確かに他競技とは一線を画している。

では野球の金メダルが他の金より軽いのかと言えば、そんなことはないはず。知名度が高いからこそ見てくれた子どもたちもいる。伝えられることがある。前述の元プロ選手は、大会を通して「名誉を得た」と言っていた。終わってしばらくしてから気付いたと。野球選手の場合、五輪に出たことで人生が激変することはないのかもしれない。だが何年かたってから気付く財産があるのだろう。東京五輪で何を得ましたか? しばらくたってから、あらためて聞いてみたい。【鎌田良美】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)