山本拓実はうれしそうだった。甲子園の地元・市西宮高から中日に入った2年目。まだ19歳。何より投げっぷりがよかった。打席で必死に粘る姿もフレッシュだった。
子どもの頃から甲子園に通い、甲子園にあこがれた元虎党。その初勝利をアシストした抑えの岡田俊哉も智弁和歌山出身、甲子園で活躍した。
阪神は負けたが、こういう姿はやはりいい。聖地を目指し、あるいはそこで活躍した高校球児がプロの舞台で活躍するのは野球ファンにはたまらないだろう。
しかし。この際だから書くが高校野球とプロ野球、あるいは大リーグが直接、つながっているわけではない。高校球児は甲子園での栄冠をつかむために日々、精進しているのだ。プロになることだけが目標ではない。それは野球エリートでも同じことだ。
「そりゃあ、将来のことがまったく気にならないということはなかったですけど。それよりも甲子園で勝ちたい、という気持ちが強かったですよ。ここで肩がぶっ壊れてもいいと思って投げてましたもん」
この話は藤浪晋太郎と雑談しているときに聞いたものだ。あれほどの男をして、甲子園大会にそれほどの思いをぶつけていたのか、あらためて思う。そこには自分自身というより、苦楽をともにしたナインと一緒に甲子園で勝ちたいという思いもあったはず。
「若さからくる間違った考えだと言われればそうかもしれませんけど。そのときはそういう感じでしたよね。考えは人それぞれだし、みんながそうあるべきとは思いませんけど」
念のため、最近、話題になったある県大会の一件について話しているのではないことは断っておく。けれど、どうしてもそっちに寄って聞こえてしまうのは困ったもの。こちらがそういう風に思っているから、余計、そうなってしまう。
さあ、藤浪の今季初登板だ。これが8月になってしまったのは今更ながら野球の難しさだが、それはここでは言わない。しっかりと投げ、再びその名前を野球ファンに思い起こさせてほしい。藤浪よ。いよいよやな。楽しみかい?
「そうですね。まあ、普通ですね。普通」
それでいい。余計な気負いはいらない。マウンドに上がれば自然にテンションは上がってくる。忘れられない8月だ。そして長期ロード前最後の甲子園。じっくり見せてもらおう。(敬称略)




