トレード移籍してきた小林慶祐が阪神のユニホームを身につけて初登板。大量ビハインドの場面ではあったがまずは好投での発進だ。それにしてもトレードで阪神にやってきたコバヤシ投手…か。そう書けば中高年はあの人物を思い出すだろう。小林繁である。

阪神時代の小林繁さん
阪神時代の小林繁さん

「江川事件」で79年の春季キャンプ直前、巨人から電撃トレードで阪神に移籍してきた。するとそのシーズン、自分を放出した古巣相手に鬼気迫る投球を見せ、実に巨人戦8連勝。シーズンを終えたときは22勝9敗1Sという成績を収めて最多勝、沢村賞を獲得した。フィクションのようだが事実。まさに“伝説”だ。

その小林繁が阪神に来たとき、なぜ巨人は強く阪神は勝てないのかと、ナインの前で話したことがあったという。当時の現役選手で現在、OB会長である川藤幸三に以前聞いたことだ。こんな内容だったという。

「選手個々の力は巨人と阪神、そんなには変わらない。俺はそう思っている。じゃあ、どこが違うのか。勝つために、それぞれの役割を果たす気持ちというかチームで戦うという姿勢が違うんじゃないか」

阪神の選手、特に個性豊かなレギュラー陣はそれまで他球団から来た選手の言葉など誰も正面からは聞かなかったらしい。だがこのときばかりは違った。

「巨人でエースだったコバ(小林)がそう言うんやからそうなんちゃうか、と。みんなで話したもんや」。そう意識を変化させたことが85年のリーグ優勝、日本一へつながっていったのかもしれない。川藤はそうも言った。

昔話が頭によぎってしまう試合だった。8、9回に反撃は見せたが勝てる気配はなかった。最終決戦と位置づけ、3連勝を目標に乗り込んできた3連戦の初戦を落として意気消沈するのは理解できる。それにしても元気がなかった。

小林繁が言った「それぞれの役割を果たす」とはどういうことだろう。状況によって違うだろうが現状の阪神では目の前のプレーを自分ができる最高のレベルでこなすことしかない。大山悠輔なら9回のように長打を放つことだ。右打ちでのつなぎではない。

坂本勇人、岡本和真の2枚看板を外し、若手主体でスタメンを組んできた巨人に負けた。東京ドーム8連敗。悔しくないのか。勢いは違うとはいえ、同じプロだ。終盤に見せた攻撃を最初から見せてみろ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

巨人対阪神 9回表阪神1死一塁、大山は左越え2点本塁打を放つ(撮影・加藤哉)
巨人対阪神 9回表阪神1死一塁、大山は左越え2点本塁打を放つ(撮影・加藤哉)