6回表阪神無死一塁、バントを失敗するサンズ(撮影・狩俣裕三)
6回表阪神無死一塁、バントを失敗するサンズ(撮影・狩俣裕三)

打撃コーチ・井上一樹と少しゆっくりと話したのは昨年の秋季キャンプのころだ。いろいろと話す間に中日ひと筋で来た人物だけに独特のムードを持つ阪神というチームになじめるのか? という素朴な質問もした。そのとき井上は笑いながら言ったものだ。

「僕は“コミュニケーションモンスター”なので。それはまったく心配していません。大丈夫ですよ」。そういえば井上とはほとんど接点もなかったのに阪神入団前から顔を合わせるとなんだかんだ話をしていたことを思い出し、そんな言葉があるのかどうかは知らないが「なるほどね」と納得したものだ。

その宣言通り、ここまで井上はうまくやっていると思う。それならばお願いしたい。サンズに言葉を掛け、気持ちを聞いてあげてほしい。指揮官・矢野燿大、あるいはヘッドコーチ・清水雅治いずれかの仕事かもしれないが、ここは井上だろうと勝手に思っている。

だってサンズがバントなんて、あまりにもおかしいだろう。目を疑ったのは1-1の6回、無死一塁だ。3番・糸井嘉男が好投していたヤクルト・スアレスから四球を選んだ。ここでサンズはセーフティーバントを試みた。結果は投ゴロで糸井が二塁に封殺される結果になった。

野手の守備陣形を見て転がせば成功するかも-と考えたのかもしれない。野球を知っているサンズならあり得る。しかしそこには大事なことが欠如している。ベンチはそんなことを求めていない、ということだ。バントした後、矢野の表情はマスクをしていたものの「どうしたんだ?」という様子に見えた。

新加入のサンズからはボーア同様、真面目な印象を受ける。かつての助っ人に見受けられた日本をナメているような雰囲気はまったくない。今ではそういうタイプでないと来日できないのも常識ではあるけれど。

承知の通り、阪神は非常事態に陥っている。この日も藤浪晋太郎が救援登板に立つなど普段とまったく違う展開だ。直接、関係ないが矢野の采配もバントが目立つようになってきた。弱気になり、浮足立っているのではないかと心配する。

そんなムードが助っ人にまで伝染しているのなら、それはよくない。マイナスの雰囲気に影響されるなど何の意味もない。「自分の打撃をしてくれ」。ここは井上がはっきりとサンズに言うところだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

6回裏ヤクルト無死、ソロ本塁打を放った村上(手前左)を見つめる矢野監督(後方左から2人目)ら阪神ベンチ(撮影・狩俣裕三)
6回裏ヤクルト無死、ソロ本塁打を放った村上(手前左)を見つめる矢野監督(後方左から2人目)ら阪神ベンチ(撮影・狩俣裕三)