前日、阪神球団社長を辞任すると発表した揚塩健治は03年、甲子園球場の球場長を務めていた。言うまでもなく闘将・星野仙一の下、怒濤(どとう)の勢いで優勝した年である。
当然だが揚塩は星野との思い出をたくさん持つ。その1つに、こんなエピソードがある。この日の甲子園は台風一過とはならず、途中に降雨もあった。その話も03年序盤、天候のよくない日のことだった。
雨で試合を中止するかどうかを決めるのは基本、主催者だが審判はもちろん、球場側にも意見を求められる。球場長の権限も当然、大きかった。その日、揚塩を監督室に呼んだ星野は静かに切り出したという。
「きょうは中止にした方がええなあ」。微妙な天候ではあったが当時のチーム状態も考えてそう言ったようだ。ここは休んだ方がいい。指揮官としての狙いがあって“根回し”をしてきたという。
だが球場長、あるいは阪神側の一員として営業面などを考えれば出来る限り試合は開催したい。「どうですかね…」と渋る揚塩に星野はこうも言ったという。
「心配せんでもエエよ。秋には、この甲子園をもっとお客さんでいっぱいにしたるから。もうけさせたるから」。揚塩は思わず苦笑してしまったという。
「チーム状況を考え、さらに営業面まで総合的に考えて、そんなことを言ってくるとは。やっぱりすごい人でしたね、星野さんは」。そう述懐した。
その言葉通りに03年は連日、超満員の甲子園となり、そして揚塩は星野の胴上げを見た。2年後の05年、岡田彰布の胴上げも同職で現場にいた。強運の持ち主のはずだったが最後はまさかの事態を受けての辞任となった。
こういう表現がいいのかどうか分からないが本当にややこしいシーズンだ。新型コロナウイルスの問題は誰にも感染リスクがあるし、完璧に避ける社会行動はできない。誰にとってもそんな矛盾を抱えながらの日々だろう。
それでもハッキリ言えるのは虎党は常に勝利を、そしてワクワクする内容の試合を求めているということだ。相性のいいはずのDeNA戦。この日はまるで元気のない試合になった。それでも藤浪晋太郎の登板には少しだが、沸いた。それが真実だろう。「勝ちたいんや」。星野阪神の代名詞だ。何年たっても、それしかないのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)




