今季最後の東京ドームでの巨人戦は「09年ドラフト」に思い出がある選手が活躍した。秋山拓巳と陽川尚将の2人だ。結果的にその2ランが効いた陽川の話から、まず、書きたい。

実際に巨人サイドがそんなことを感じているかどうかは分からないが、個人的には活躍すればするほど巨人にショックを感じさせられる男が陽川だと思っている。「巨人のドラフト指名を断った最後の選手」とされるからだ。

09年のドラフトで巨人から育成3位の指名を受けたがこれを断り、大学進学。4年後のドラフトで阪神から3位指名された。巨人について以前に聞いたら「それはもういいじゃないですか」と言った。09年の段階では「育成か-」などと思っただろうけど、そんなことを口にしない態度は気に入った。

そして惜しくも完封を逃した秋山だ。09年ドラフト4位で阪神に指名され、入団。古いファンならご承知だろうが、そのとき秋山は目を真っ赤にしていた。うれしくて、ではない。悔し涙だった。

「4位なのか-」。下位指名の悔しさをまったく隠さずにプロでの活躍を誓った。気骨あふれるその態度はいいなと思っていた。

さらに2人が評価できるのは下積みの苦労を重ね、1軍戦力になっているところだ。正直、2人とも阪神の戦力と聞いてすぐに名前が出てくる選手ではないかもしれないが、地道に努力を重ね、じっくりと熟成してきている。

そして藤川球児だ。異例の敵地でセレモニーをやってもらった。98年のドラフト1位。当時の指揮官・野村克也は同時期の西武1位だった松坂大輔と比較し、嘆いていたものだ。そこから虎党はもちろん、G党からも惜別の拍手を受ける存在になった。その陰で積んだ努力は想像もできない。

阪神は育成がうまくないとよく言われる。フロントの手腕もよく批判される。この世界の近くにいて、正直、その批判は的外れではないと感じる。それでも思うのはやっぱり最後は自分次第だろう、ということだ。

名前を挙げた生え抜きの3人と同時代を生き、プロでいい仕事をできなかった選手は阪神はもちろん他球団にも多くいる。3人と彼らの違いは何か。運もあるだろう。それでも自分を信じ、やり続けることでしか栄光に近づく道はない。ドラフト前日の快勝に、あらためてそう思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

巨人対阪神 東京ドームでの今季最終戦を終え、ファンの声援に応える阪神藤川(撮影・鈴木みどり)
巨人対阪神 東京ドームでの今季最終戦を終え、ファンの声援に応える阪神藤川(撮影・鈴木みどり)