いろいろあった阪神、今季も残り10試合になった。そこで、このタイミングで大山悠輔を「3番」にしてはどうか、と思う。快勝したこの日の猛打賞はよかった。4番打者としてチームの勝利に貢献しようという心意気が伝わってきた。

大山は言うまでもなく現在、本塁打キング、そして打点王への戦いを繰り広げている。うまくいけば打撃3冠のうち2つを1人で-というのは望みすぎだろうが、なんとか、1つ、獲得してほしい。

広島3連覇監督の緒方孝市(日刊スポーツ評論家)は現役時代の95年から3年連続で盗塁王を獲得している。その緒方に「タイトルを取れ」と口をすっぱくして言ったのが当時のチーフ兼打撃コーチだった山本一義だ。現役時代は広島の主砲。その後、コーチを務め、ロッテ監督時代には落合博満に3冠王を取らせたことでも知られる人物だ。

「お前は足が速いんじゃからなんとしても盗塁王のタイトルを取れ。タイトルを取ればいろんなことが変わってくるんじゃ」。ガツガツした様子を見せない緒方に対し、叱咤(しった)激励したという。その盗塁王をきっかけに緒方は球史に残る選手になった。

「タイトルを取れば変わる」というのは重い言葉だろう。大山に欲しいのは「オレが阪神の看板だ」という自信にあふれた様子だと思っている。おとなしいイメージの男だが、本塁打王を取れば、そういうムードもじんわりと出てくるのではないか。

それにしても大したものだ。失礼を承知で言えば昨季までの大山を見ていて、こんな状況になるとは思わなかった。現在、本塁打王を争うライバルを見れば、心底、そう思う。ファンだった阪神を相手に不敵に笑う巨人岡本和真。「怪童」と呼ぶべきヤクルト村上宗隆。そして「日本の4番」鈴木誠也である。

現在の球界を代表する面々とここまで渡り合えるとは、正直、思っていなかった。4番起用に関しては他に候補がいないからかという見方をしたこともある。それがどうだ。こんなややこしいシーズンでここまでの活躍。自らの不明を恥じるばかりである。

こうなったら何としてもタイトルを取ってほしい。それも「野球の華」である本塁打王ならベストだ。だからこそ1回から打順が回る3番打者に据え、残り10試合、最後の勝負をさせてほしいと願う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)