阪神の4番が巨人に行かなくてよかった-。私見だが、と断らなくてもいつも私見しか書いていないのだけど、念のため。FA宣言していた大山悠輔が残留を決めたことで、もっともいいなあと思ったのはそういう点だ。

11月30日、大阪市内でOB総会が行われ、川藤幸三からOB会長を引き継いだ掛布雅之があいさつした。その中で古い虎党にはおなじみのフレーズ、このコラムでもときどき紹介する有名なものが出た。

「巨人には歴史と伝統がある。阪神に歴史はあるが伝統がない」。これは1979年(昭54)にすったもんだの末、巨人入りを決めた江川卓との電撃トレードで阪神に移籍、エースとして君臨した小林繁がのちに発した言葉だ。歴史は巨人に負けず古いが「強い」という意味での伝統はない。巨人から来た立場でズバリ言い切ったものだ。

それを引き合いに出した上で掛布はこう続けた。「ここ数年の阪神の戦い方、チームのつくり方を見たときに胸を張って歴史と伝統のあるチームなんじゃないんですかと、天国にいる小林さんに声をかけられるのでは」。

虎党ならジーンと来る話だと思う。さすが、掛布である。まさにその通りだ。「東京に負けてへんで」と大阪を中心に関西が東京に対して持っている独特の感覚に根ざし、人気面ではまったく負けていない阪神である。そこに強さが加われば、まさに留飲を下げる状況になるのだ。

そんな中、もしも「阪神の主砲が巨人に移籍」などということが現実に起こっていたらどうだったか。「FAだから本人の権利、自由」「こんな時代に巨人だ、阪神だ、伝統の一戦だなんて古い」。そんな声もあるだろう。実際、それは正しいのかもしれない。

それでも勝負事、プロ野球はそういう“因縁”があるから楽しいとも言える。掛布が言うように「巨人に負けない阪神の伝統」を築きつつある現状で大山の移籍が実現していたら、やはり複雑だっただろう。

「5年」という長期契約の中で活躍を続けるのは、過去の例を見ても簡単ではないし、大山の来季以降もそうスムーズだとは、正直、予想していない。それでも「阪神の大山」として好調時には輝き、不調時にはもがく姿を我々は注視していきたいと思う。あらためて、巨人に移籍しなくてよかった。(敬称略)

23日、阪神ファン感謝デーのオープニングで入場する藤川監督(手前)を見つめる大山
23日、阪神ファン感謝デーのオープニングで入場する藤川監督(手前)を見つめる大山