9回、巨人マルティネスから代打二塁打を放ったのは木浪聖也だ。その姿を見ながら横浜スタジアムで少し交わした会話を思い出していた。グラブを右手でポンポンとたたく木浪を見て「練習しとるんかい?」。そう話しかけたのである。入団時から知る気安さではあるが、微妙な話だろう。そばにいた中野拓夢が「おいおい」という顔で苦笑していた。
「ねえ。練習はしてるんですけどねえ…」。人のいい木浪はムッとすることなく、そう返してきた。確かにそうだ。練習すれば、できるというものではない。野球に限らないこと。だが反対もしかり。練習なしでは絶対にできないのだ。
1週間前、19日の広島戦(甲子園)を受けてのことだ。その試合で木浪は悪夢の1試合3失策を記録。チームの敗戦もあり、翌20日の同戦から木浪の名前はスタメンから消えている。
ミスした後、すぐチャンスを与えて起用するか。それとも冷却期間を置くのか。「構想外」にしてしまう場合もあるだろうが、さすがに木浪はそんな立場ではない。だからこそ指揮官・藤川球児は後者を選んだのだろう。それからこの日までの6試合は木浪ではなく、小幡竜平がスタメン遊撃手だった。
内心、こたえているだろうな。そう思って、あえての失礼な問いかけだ。「すっかり出番なくなってるやん」。それに答えた木浪はこんな話をした。「それがいいんですよ。今ね“ためて”るんですよ。グッとね。ためてるんです。ドンと出すためにね」-。
こういうところが木浪に驚かされる点だ。おそらく続けているメンタル・トレーニングの成果でもあるのだろうが、「逆境を糧にしてやろう」という前向きな姿勢が常に感じられる。
もちろん小幡も必死だ。このチャンスをものにできれば…という思いだろう。22日DeNA戦(横浜)でのバント安打はしぶかったし、前日26日巨人戦(甲子園)では8回1死満塁のピンチで横っ跳びの美技を見せ、チームを勝利に導いている。
それでも打撃では現状、木浪に分があるかもしれない。守備力は違うけれども。悩む選択だろうが、そろそろかな…とは思う。「勝っている間はなかなか代えられない」。この日、テレビ解説に出た岡田彰布オーナー付顧問もそう言った。6連勝で止まった阪神、29日からは9連戦だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)




