金足農(秋田)大友朝陽外野手(3年)の公式戦初本塁打がチームを勝利に導いた。3-3で迎えた8回表1死、左翼席へ豪快なソロ。6-3で大垣日大(岐阜)に競り勝ち、95年以来の3回戦進出を決めた。同校の本塁打は、4強入りした84年夏に、広島商との1回戦で工藤浩孝(現西目監督)が放って以来。春夏通算10勝とした。23年ぶりの8強をかけ、17日の3回戦では横浜(南神奈川)と対戦する。

 大友がフルスイングした白球が、左翼席ポール際に大きく弾んだ。「バットに当たった瞬間にいったあ~と思った」。甲子園の浜風にも乗った打球の行方を見届けると、一塁側ベンチ前でキャッチボールしていたエース吉田輝星(3年)に向かって小さく拳を握り、目線を送った。「吉田が最初に僕のところにきて『ナイス、バッチ!』と声をかけてくれた。援護できて良かった」。ダイヤモンドをゆっくり回って、4万3000人が見つめる殊勲弾の余韻も楽しんだ。

 フルカウントからの12球目だった。4球連続ファウルで粘って場内が沸くと「こんな大舞台でやっているんだと楽しくなってきた。何としてでも食らいついていこうと思った」。内角の甘い直球を逃さなかった。2回には死球で理学療法士に治療を受け、4回には送りバント失敗。体と心の痛みも闘志に変えた。

 名前の「朝陽」は、朝に生まれ「常に人を照らすような人になってほしい」との願いを込めて命名された。4人兄弟の長男で、3人の弟とキャッチボールなどで遊ぶこともある。8日の初戦前日には家族に本塁打を打つことを宣言。父謙次さん(40)は「1回戦は三塁打でしたが『次の試合こそ打つ』と返信がきました。遅れましたけれど予告が当たりました」。母直美さん(40)も「名前は旦那も好きなアサヒビールからも…なんです」と最高の祝杯にも感謝した。

 チームではムードメーカーだ。盛り上げるネタを考える“演出家”。仲間の緊張を和らげるために、中泉一豊監督(45)のモノマネを下級生を演者にして披露することもある。野球での努力も、もちろん怠らない。この冬には竹バットで打撃練習を繰り返し、下半身主動のスイングも身に付けた。筋力トレーニングで、体重も入学時の57キロから72キロまで増量。同期3年生には「空気を読まないことも多い」と笑いが“すべる”こともあるが、高校通算3発目の1発で笑顔にさせた。

 前回出場時の07年1回戦でも大垣日大と対戦。4回途中、先発の高橋健介投手の首に打球が直撃して降板するアクシデントもあり、1-2で敗戦した因縁試合のリベンジも果たした。大友は「秋田県民の期待にも応えられたと思う。次は甲子園優勝経験チーム。勝利の役に立ちたい気持ちは変わりません。自分たちの目標は84年の4強を超えて優勝すること」。緊迫した空気を読んだ勝ち越し弾で主役となった。【鎌田直秀】