仙台育英(宮城)が星稜(石川)に1-17で大敗し、4年ぶり3度目の4強入りを逃した。

2番手で登板した最速145キロエース右腕・大栄陽斗(3年)ら「最速140キロ超カルテット」が、4本塁打を含む22安打を浴びる一方的な展開。それでも小濃塁外野手(3年)が今大会2本目の右越えソロを放っただけでなく、攻撃時には足をつった相手投手のもとへ水分補給に走る姿は、大観衆の拍手を浴びた。

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大栄が懸命にリードした1年生の木村航大捕手を、涙ながらに強く抱きしめた。敗戦直後のベンチ前。甲子園の土と汗にまみれた顔と体を密着させ、「1年生でも、これからはお前が主力で引っ張らないと甲子園で勝てない。次こそ頑張ってくれ」。飯山(長野)との1回戦では41年ぶりの1年生先発バッテリーを務め、全試合でマスクをかぶった後輩も「ありがとうございます」と涙。投打に活躍した笹倉世凪、先発して満塁弾を含む2回途中5失点の屈辱を味わった伊藤樹を含む4人のベンチ入り1年生らに向けて、大栄は「貴重な経験をすべての1、2年生に伝えて、来年も甲子園に戻ってきて日本一になってほしい」と夢を託した。

大栄と小濃が出場して悔しさを味わった昨夏の甲子園。浦和学院(南埼玉)との初戦2回戦で0-9と大敗した日から、新たな挑戦が始まった。須江航監督(36)から「浦学戦から1000日で日本一」と目標を掲げられた。18年1月に系列の秀光中軟式野球部から就任後、まずは走塁練習に特化してきた半年。好投手攻略は困難だった。その後は打撃練習に特化し、打線に磨きをかけてきた。

同時に投手育成にも着手。ケガを含めた使い減り防止のため、投げ込みは1日60球までに制限した。連投もなし。遠投距離も個々の最長の7割程度。フォーム形成を最重要視した。横を向く時間を長くし、胸を張って投げることを徹底。そのために骨盤を動かすトレーニングや、背中の柔軟性を高めるためにブリッジや逆立ちも導入。現在は2年生以上の投手18人中7人が、入学時より10キロ以上もスピードを上げた。大栄は20キロ増の最速145キロまでアップし、140キロ超は1年生の2人を含むと計7人に増えた。

野球以外での生活も見直した。7回表2死の攻撃中、星稜・荻原吟哉投手(2年)の足がつると、ベンチで自分で飲もうとコップにスポーツ飲料を用意していた小濃が、すぐさまタイムをかけた。マウンドへ小走りし、「この先も長いんだから、しっかり飲んでおけよ」と手渡した。「2年生ですし、ケガで野球が出来なくなったらいけないと思いました。野球は相手あってのスポーツなので」。敵味方を超えたフェアプレーの精神に、勝ち負け以上の拍手に包まれた。球場を後にする際も「優勝しろよ」などと声をかけながら星稜ナインとハイタッチして別れる姿は、仙台育英の目指す形の1つでもある。

須江監督も「負け方は悪かったから説得力はないですが、近い将来に歴史が変わると思っている。それを実証したい」。ベンチ外を含む31人の3年生の姿と、下級生がしっかり融合できた1年。3年計画の第1章は、大きな手応えを得て幕を閉じた。【鎌田直秀】