今年3月に日大三(西東京)の監督を退任した小倉全由氏が、日刊スポーツ評論家に就任。甲子園通算37勝、全国制覇2度の名伯楽が、独自の視点で熱い戦いぶりをチェックします。
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3月末で高校野球の監督を退いた私ですが、神奈川県の1回戦の試合前、バックネット裏で緊張していました。胸の鼓動は今までと何ら変わりません。夏の大会初戦、そして初回だけに漂う独特の緊迫感は、ベンチからネット裏に移っても変わらないんです。
両チームのこの試合にかける思いが伝わってくるからでしょう。1歩引いたところから見ようと思っていましたが、気が付けばどっぷりと試合に浸ってました。
鎌倉学園とはよく練習試合をしました。評論をすることになり、それならば最初の試合は、練習試合で刺激し合ってきた竹内監督の試合を、じっくり拝見しようと思い、保土ケ谷に足を運びました。
初回、横浜商大高が3点を先制します。思わず日大三時代の臨場感がよみがえってきます。私にも初戦の初回に2点を先制された試合がありました。その裏、日大三は0点。私は心の中で「おい、どうすんだよ」と自問自答していました。
何度も甲子園に出場してきましたが、それでも初戦、初回の攻防で感じるものは異質です。仮に鎌倉学園が無得点なら、どうなっていたでしょう。まさに竹内監督の度量が試される展開でした。
鎌倉学園は1回裏に2点を返し、これで試合は落ち着きます。中盤まで同点で推移し、7回裏に3点を挙げた鎌倉学園が突き放して初戦を突破しました。
四球が多い試合(両校合わせて11個)でしたが、失策はお互いに1つずつ。スタンドの応援を含め、両校ともに団結して戦う姿は好感が持てました。横浜商大高は何度も内野陣が好プレーを見せ、3回から3イニング連続で成立させた併殺は見応えがありました。
ネット裏から夏の地方大会を、それもスコアブックをつけながら見るのは新鮮でした。監督時代はマネジャーがつけてくれたスコアブックをのぞくことはあっても、こうして1球ずつ記入し、視野の広いバックネット裏からグラウンドを眺め、多くを感じました。
高校野球は負けたら終わりです。この試合にすべてをささげる球児たち、スタンドで応援する仲間が一体となり、躍動感あふれる空間を味わわせてくれました。こうした戦いを関東第一、日大三で38年もやってきたのかと思うと、夢中で歩んだ月日が一瞬にも感じます。
東京都では大会期間中に、監督やコーチがバックネット裏から対戦チームを視察することを禁止しています。紛らわしい偵察行為を抑止するためです。従って私が試合をバックネット裏から見る機会はありませんでした。
ですから、感じたこともあります。ベンチよりも全体を一望できるため明確にわかります。二塁走者がいる時の遊撃、二塁手の守備位置がちょっと近すぎるように感じます。
また、二塁や三塁の走者はもう少し大きくリードするべきです。あと50センチ、リードが大きければ、クロスプレーでセーフになる確率は高まります。
監督から、試合を評論する立場になり、バックネット裏から見させてもらいました。それでも、私の高校野球への熱い思いはまったく変わりません。これからも、どうぞよろしくお願いします。(日刊スポーツ評論家)

