<日本生命セ・パ交流戦:西武5-6ヤクルト>◇15日◇メットライフドーム

山賊の異名にだまされてはいけない。西武打線はここぞの場面で豪快な一騎打ちではなく、真綿で締めるようにジリジリと相手を囲い込む。

4点を追う8回1死一、二塁。栗山が「球速以上のスピード。これぞピッチング」と評したヤクルト石川交代の潮目に束になる。2番源田が粘りまくった。梅野の4球目のフォークが本塁ベースはるか手前の人工芝で跳ねて暴投。球種の選択肢から消え、苦し紛れの直球をカットし続けた。16球目で初のカットボールに見逃し三振に倒れたが、直球とカット系に限定させられた梅野を追い込む。外崎は死球、山川、森と連続押し出し四球。中村が代わったマクガフの155キロ直球を、小太刀を振るような軽打。走者一掃の一時逆転の適時二塁打を放った。前夜に歴代最多を更新する18本目の満塁弾をマークした“強奪ぶり”はなし。前打者たちのお膳立ても含め、じわじわと追い詰め、5点を重ねた。

満塁男の中村はフルベースを「面倒くさい」と表現する。言葉はぶっきらぼうだが「プレッシャーがかかる」のが真意だ。「ホームランを狙った結果がヒット」という打撃スタイルが、勝利に直結する状況なら変貌する。辻監督は「相手の球速を体感しての軽打。見事です」と舌を巻いた。

中村だけではない。西武打線に根付いている。秋山は試合前に押し出しを選んだ前日の満塁での打撃を振り返った。

秋山 打ちにいったが、タイミングが合わない。その中で追い込まれて初めてノーステップに変えた。それで押し出しまで持ち込めた。そんなことを今までしたことがない。友哉(森)も前の打席で右足を上げて、着いてからの動作を変えていた。見ていて勉強になる。自分の打撃を貫いて凡退しても納得はいくかもしれないが、チームには何も残らない。

常識など通用しない打棒に「山賊打線」の称号はよく似合う。だが実際は知略を張り巡らし、チームの栄光のために己を捨てている。【広重竜太郎】