ヤクルトから戦力外となった上田剛史外野手(32)が2日、現役引退を決めた。ヤクルトでの14年間。通算797試合345安打、9本塁打、打率2割3分6厘。球場での声援、SNSを通じた応援がいつも力になった。「たいした選手ではなかったけど、いろんな方に応援してもらえました。もうプレーで恩返しすることはできませんが、感謝の気持ちでいっぱいです」とメッセージを送った。

1日までトライアウトに向けた練習を続けていた。しかし目標が定まらぬままで、打撃練習中に「自分は次の道に進んだ方がいいのではないか」という考えが、浮かんでは消える。帰宅後、結論を出して家族に電話を入れた。自主トレをともに行った師匠の青木にも連絡した。「剛史なら、次に進む覚悟があるなら大丈夫」と前向きな言葉で背中を押された。

今季最終戦の翌日、11月11日に球団事務所で戦力外通告を受けた直後は、抜け殻のようになっていた。「悔しさや不安や、いろんな感情が頭の中にあって、何も言葉が出ませんでした」。そんな状態から、練習再開へと動きだせたのはファンの声があったから。上田の戦力外が一斉に報じられると、SNSは応援であふれた。「落ち込んでいる時に、ファンの方からのメッセージに元気をもらいました。それが、自分を突き動かしてくれました」。

ある時、球場の外からグラウンドを見て、改めて感じたことがあった。「誰もが味わえない雰囲気や、経験をさせてもらいました。俺は本当に幸せなんだなと。ファンで埋め尽くされた球場でプレーしているのはすごいことで、ファンの存在はすごい大きいと思いました」と振り返る。ヤクルトの経験は、次の人生のステージでもいきるはずだ。

上田の周りには、いつも笑顔があった。「上田新喜劇」もそうだが、チームメートやファンを元気にする、笑顔にする、そんなパワーを持っている選手だった。「人が笑ったり、喜んだりしてくれることが好き。もしかしたら、逆効果になっていた時もあるかもしれないけど、みんなが盛り上がってくれることは、ヒットを打つことやファインプレーと同じくらいうれしかった」。戦力外と知り、目の前で涙を流すチームメートもいた。その姿が、上田の選手人生を表していると思う。

14年のプロ生活に、幕を下ろした。進路は、思案している最中だ。やりたいことに、いろいろチャレンジする予定という。ずっとともに歩んできた野球は、大好きなまま。「将来、また野球に何かしらの形で関われたらなと思います。最終的に、またユニホームを着て、スワローズに戻ってこられたら」と夢もある。

途中で、つぶやいた。「みんなに忘れられたくないなぁ」。あのホームランも、あのファインプレーも、ファンの記憶に間違いなく刻まれている。安心して、次のスタートを切ってほしい。【保坂恭子】