日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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最近のプロ野球で「正捕手」という表現で決めつける人材が乏しいのは、各チームが併用策をとっているからだろう。それだけ1シーズンを1人で乗り切るのが困難になっている。

野村克也は「生涯一捕手」を唱え、巨人正捕手だった森祇晶もV9を支えた。その先人が育てたのが、伊東勤、古田敦也らで、名捕手は、名捕手の元で生まれるのかもしれない。

阪神を率いた野村は、ミーティングで配布した表紙に「マル秘」と書かれた“ノムラの考え”の117ページに『捕手としての心得』と題して捕手論を展開している。

「捕手は守りにおける監督の分身であるという認識を持つことが最重要である。“バッテリーはゲームメーカー”であるのだから、責任と使命は多大である。“優勝チームに名捕手あり”なのである」

名監督だった西本幸雄は、近鉄バファローズで、梨田昌孝、有田修三の2人を併用した。梨田は井本隆、村田辰美ら、有田は鈴木啓示と組んで、“アリ・ナシコンビ”と称された。

梨田は「肩がある(強いの意味)のがナシダで、ないのがアリタだった」とダジャレを交えながら「出場が半減すると給料も抑えられるわけで、お互いが競い合った」という。

1980年(昭55)の西本近鉄はこの2人を巧みに起用し、連続リーグ優勝を果たす。梨田(15本塁打)と有田(16本塁打)で計31本塁打を放ったから、捕手が“ホームランバッター”として機能したわけだ。

梨田は「捕手の併用策をとると、どうしてもライバルになるキャッチャーとは違った攻めをするようになる。有さんもぼくに負けたくないと思って、逆の配球で違うところをみせた」と相乗効果を認めた。

オリックスでは森、若月がマスクをかぶる。阪神は梅野が故障から復調し、開幕に間に合いそうだ。再び坂本との「2人制」になればチームの流れも変わるかもしれない。

梨田はきわどいコースのボールを、球審にストライクと判定させる「フレーミング」の技術には「審判は気分が悪いはずだ」と否定的だ。もっと正々堂々と競い合うべきと言いたげだった。

「わたしも走者がいないときなど、ちょっと長く審判にみせたりはしたが、球審をごまかすようなまねはしなかった。投球を包み込むようなキャッチングをしないといけない。坂本はしつこい、粘りのある捕球をする。梅野のキャッチングだって成長しているし、意地もあるはずだ」

捕球について独特の表現をした梨田だが「もっとも大切なのはピッチャーとの信頼関係」と女房役の条件をあげた。結局、捕手の併用策も、突き詰めれば、そこに落ち着くのかもしれない。(敬称略)