西武3軍の北海道・美唄(びばい)市での夏季キャンプが12日、全日程を終了した。
首都圏より5度ほど気温が低い大地で約2週間、22人の若獅子たちが汗と泥にまみれた。NPB球団では初の取り組みとなった“夏合宿”はライオンズ再建への第1歩、新たなる黄金時代の原点となるか-。担当記者が3日間、潜入した。
◇ ◇ ◇
広い青空と大地が、若獅子を受け止める。昨秋ドラフト1位の斎藤大翔内野手(18)が金子功児内野手(21)と2人でノックを受けながら「美しい唄と書いて美唄です!」と声高に叫んだ。汗と泥と砂煙がいつも彼らを包んでいた。
プロ野球で異例の“夏合宿”は未来を作る場だ。一方で5年後、22人のうち何人が獅子でいられるか。ルーキーよりも、厳しさをより知る2年目、3年目の選手たちの必死さに、つい引き寄せられてしまう。
◇ ◇ ◇
奥村光一外野手(25)は背番号75、参加者の最年長だ。「このままシーズンが終わったら、自分自身も終わりと思ってるので」と危機感から逃げない。昨季途中に支配下登録されたが45試合出場で打率1割台。今季は1軍に縁がない。
「僕は今回、ひと回り下の選手たちと美唄に来ました。でも同い年の(西川)愛也とかは1軍の遠征で北海道に来てる。これ以上ない悔しさです」
今を“どん底”と表現した。「でもここからはい上がった時、絶対に強い選手になってると思うので」。美唄での練習試合では見事に先頭打者本塁打。「折れたら絶対終わり」と己に言い聞かせ、奮い立つ。
◇ ◇ ◇
視察に訪れた西口文也監督(52)が「飛ばすんだよな~。能力を出し切れてなくてもったいないよな~」と、左翼芝生席上段まで運んだ野村和輝内野手(22)のパワーに見とれていた。昨冬の球団納会ゴルフでは約370ヤードを飛ばし、6人抜きでドラコンを勝ち取った飛ばし屋だ。
ただ故障に泣く。「注射で我慢してたんですけど、もう歩くのもつらくなって」。5月に手術し、7月に復帰したばかり。育成3年目ながら当然、復帰し1カ月間で支配下を勝ち取るのは困難だった。
「来年も契約もらえた時には存分に発揮できるように準備したいです」
そう信じる一方で「(契約更新を)言われる日までは怖さしかないですよ」が本心だ。だから後悔ないよう。8月4日朝7時25分、この日最初にアップを開始したのは野村和だった。
◇ ◇ ◇
育成2年目左腕のシンクレア投手(24)と話していたらバッタが飛んできた。「いろいろいますね」と笑う。笑顔に安心する。
3軍戦でも四死球に苦しむ。イップスではなく純粋な制球難だという。「メカニックをきれいにする中で持ち味をどこかでなくしちゃって」。ドラフト指名時を「10」とするなら今は「3割くらいかなと。めちゃくちゃ悔しいです」。
夏合宿でも青木ファーム投手コーチがとにかく粘り強く、マンツーマンで指導。「見てくれるだけで本当にうれしいです。結果で恩返ししたいですけど、今は努力で見せるしかないので」。合宿後半の練習試合では13球で3連続奪三振。少しずつ少しずつ。
◇ ◇ ◇
心のどこかに不安を感じながら、ひたすら練習に打ち込む表情はまるで野球少年のよう。昇格、降格の生々しさに直面する日常ではできない、夏合宿ならではの名シーンがあちこちに。1軍選手たちから「美唄、暑かったですか?」と聞かれた。「熱かったです」と答えておいた。【金子真仁】
○…7月のある日、2軍球場のカーミニークフィールドの気温が39度に達した。チーム再建へ若獅子の育成は必要不可欠。しかし関東地方の夏の暑さは限度を超え始めている。Jリーグの秋春制移行なども含め、スポーツ界で「夏の北海道キャンプ」が選択肢になりつつある。西武は今回、美唄市と思いが一致した。
潮崎哲也シニアアドバイザー(56)が“団長”に選ばれ、連日のように打撃投手も務めた。「プロ野球のレベルが上がって、外国人がすぐ活躍するかって言ったらそうでもない。地道に若手育成するのが常勝軍団への近道と思います」。西武は今季、育成選手7人が支配下登録。その事実は育成選手たちへの希望にもなる。「だから今は地道にやるだけ。ファンの皆さん、もうちょっと時間をください、っていうところですね」と潮崎氏は願っている。
◆美唄市 北海道札幌市と旭川市のほぼ中間にある人口約1・8万人の都市。かつては炭鉱の町として栄え、現在は農業が盛ん。ハスカップ生産量は日本一で、美唄焼きとりでも有名。



