世間を騒がせた日本相撲協会の理事長選が終結し、新しい「人事」が稼働した。八角理事長(元横綱北勝海)との争いに敗れた貴乃花親方(元横綱)は新たに巡業部長の任に就いた。これを「報復人事」と受け取る人は結構、多いようだ。

 確かに執行部を外れたことで、そういう見方はある。ただ、協会に「金」を生み出す要職とされる「巡業部長」は従来、事業部長に次いで協会ナンバー3に位置づけられていた。決して軽んじられる地位ではない。そして個人的には、協会の位置づけなど関係なく、貴乃花親方がどんな巡業の稽古風景に変えてくれるだろうかと期待感にあふれている。

 おととしの37日から昨年は64日に増加したように、巡業日数はここ数年、増加傾向にある。それが影響してか、稽古する幕内力士は減少してきた。親方衆はなんとか改革しようと試行錯誤して、昨年は稽古の「申告制」を導入した。ただ、土俵に立つ力士はたいてい同じ。見慣れた風景が連日、続いた。だからこそ現役時代に猛稽古でならし、巡業では「1年約100日」時代を経験し、横綱から下位の力士にまで“物言える”貴乃花親方の存在は、新しい「刺激」になるのではないかと思っていた。

 4月から新体制で始まった春巡業。7日に長野県松本市で、巡業取材に訪れた。朝稽古は申告制でなく、従来の申し合いになっていた。幕内の申し合いには10人も土俵に上がっていた。その力士の半分近くは失礼ながら昨年、巡業の土俵であまり見なかった力士たちだった。

 そして、じっと土俵を見つめていた貴乃花親方は、こまめに力士に言葉をかけていた。その一挙手一投足、一言一言がどこか重く感じられた。それは力士にとってなおさらで、連日アドバイスを受ける逸ノ城は「ありがたいです」と言った。言葉をかけられたい力士は、多いに違いない。

 巡業はまだ始まったばかり。だが、新しい刺激は間違いなく入っている。巡業の稽古が変われば、本場所の風景は変わる。貴乃花親方による「土俵の充実」を、楽しみにしている。【今村健人】