「先人、故人を尊び、後輩を導く」。「己だけが辛いわけではない、道に迷ったら、故郷・家族を思い出す」。「清い心、武士道こそ相撲道である」…。

 部屋に掲げられている10項目の綱領には、境川親方(53=元小結両国)の信念が詰まっている。口癖は「いろんな先人の皆さんのおかげで、今がある」。こわもてで弟子への指導も厳しいが、この国を築いてくれた人々や故郷を思う気持ちは誰よりも強く、深い。

 長崎で生まれ育ち、新理事として九州場所担当部長に就任した今、胸を痛めているのが熊本地震被害の甚大さだ。「九州は地震が少なかったから。震度2や3の余震でも落ち着かないと思う」。長崎市内の実家はタンスが大きく揺れた程度で親も無事だったが、避難生活で疲労が重なる被災者を思うと顔がゆがむ。

 福岡には、9月の秋場所中から12月初旬まで約3カ月間滞在する。「せめて九州場所の15日間は被災者の人も相撲を楽しみにして、苦しい状況を少しでも忘れてもらえれば。そのために、事前の準備をしっかりしたい」。被災者の招待なども模索するつもりで「こういう時こそ相撲界が果たさなきゃいけないことがある」。真っすぐなおとこ気で、故郷九州のため、ひと肌脱ぐ覚悟だ。【木村有三】

 ◆境川豪章(さかいがわ・ひであき)元小結両国。本名・小林秀昭。1962年(昭37)7月30日、長崎市生まれ。日大を経て85年春初土俵。87年春新入幕。92年末に引退。年寄「中立」襲名。03年初場所後に「境川」襲名。九州場所担当、巡業部、審判部などを歴任。