玉鷲先生-。思わず、そう言ってしまいそうな場面があった。

 夏場所前の二所ノ関一門連合稽古が行われた際、私は入社したばかりの新人記者を連れて現場に向かった。稽古が終わり、関係者にあいさつ。そこに、一息ついている幕内玉鷲(31=片男波)がいた。「関取-」。声を掛けると、玉鷲は隣にいた新人に向かって、こう放った。「鼻くそついてる」。あわてて目をやったが、分からない。実際には鼻の部分の皮がはがれていただけだったが「清潔にしなさい」と手厳しい先制“口撃”。そこからは、玉鷲流レクチャーの始まりだった。

 新人はスーツ姿で何も問題なさそうだったが「ネクタイが合ってない」とバッサリ。ストライプ柄のスーツと幾何学模様のネクタイの組み合わせに物言いをつけた。入門前はホテルマンを目指していただけあって、服装チェックもさすがに厳しい…。と思っていたら、「もっとチャラい格好のほうがいい」と異例のアドバイスが!。会社の命運を握る若い力を、おかしな方向に進ませるわけにはいかない。だが、そこにも玉鷲なりの考え方があった。

 「キチッとしてると、堅苦しくて話しづらい。聞かれても『はい、はい』って言って終わらせちゃうこともある。やっぱり面白い話をしたいし、俺はそういうのが好きだからね。服装もあんまり堅すぎないほうがいい。記者の皆さんも、いろいろ話を聞けた方がいいでしょう?」

 負けた支度部屋でも、悔しさを押し殺して気さくに対応してくれる力士の1人。本紙でも「舌でひねり」で何度お世話になったことか…。こちら側のことまで気遣ってくれた助言に、心を打たれてしまった。夏場所は4勝11敗と大負けしてしまったが、次に活躍した時にはデカデカと掲載して恩返ししたい。と、ひそかに思っている。【桑原亮】