大相撲は柝(き)で始まり、柝で終わる-。角界で古くから伝わる言い回しだ。これを実感する場面が、名古屋場所4日目にあった。柝とは、呼び出しが進行の折々に打つ拍子木のこと。桜の木で作られた拍子木を打つと「カーン」と高い音がなる。大相撲では、時刻に合わせて進行するのではなく、進行に合わせて呼び出しが柝を鳴らす。

4日目、西の幕内土俵入りの最中に、館内の火災報知機が作動した。行司が「若元春、福島県出身…」まで言ったところでマイクが途切れ、「こちら防災センターです」との館内放送が流れた。火災の確認をしているとの知らせだった。非常時のためにマイクが通じなくなった。

直後、観客が誤って消火栓のボタンを押したことは確認できたが、行司のマイクは作動せず、警報音は鳴りっぱなし。そんな中、呼び出しの「柝」が進行をつかさどった。柝を合図に、力士が土俵に上がる。続いて、横綱大の里の土俵入り。これも柝で進行していった。大の里に続いて、横綱豊昇龍の土俵入りの最中にマイクが復旧。館内放送で「火災ではありませんでした。ご安心下さい」とのアナウンスがあった。

幕内土俵入りで拍子木をたたいた幕内呼び出しの幸吉は「相撲は柝で始まり、柝で終わる。どれだけ柝が重要か、力士も私たちも再認識しました。42年やっていますが、こういうのは初めてです」と証言した。横綱土俵入りを担当した立呼び出しの克之は「花道から出て行った時、いつもと違うざわめきがありました。でも拍子木をたたいて横綱が前に出ると、お客さんがワーッとなった」と、無事に進行できた喜びを口にした。火事がなくてなによりだが、柝の存在感を示した一場面だった。【佐々木一郎】

横綱土俵入りで拍子木をたたく呼び出しの克之(撮影・森本幸一)
横綱土俵入りで拍子木をたたく呼び出しの克之(撮影・森本幸一)
幕の内土俵入りで拍子木を打ち鳴らす呼び出しの幸吉(撮影・加藤哉)
幕の内土俵入りで拍子木を打ち鳴らす呼び出しの幸吉(撮影・加藤哉)
呼び出しの幸吉(撮影・加藤哉)
呼び出しの幸吉(撮影・加藤哉)
大の里の横綱土俵入りで拍子木を打ち鳴らす呼び出しの克之(撮影・加藤哉)
大の里の横綱土俵入りで拍子木を打ち鳴らす呼び出しの克之(撮影・加藤哉)
横綱土俵入りで拍子木をたたく呼び出しの克之(左)(撮影・森本幸一)
横綱土俵入りで拍子木をたたく呼び出しの克之(左)(撮影・森本幸一)
呼び出しの克之(撮影・加藤哉)
呼び出しの克之(撮影・加藤哉)