古くは「カミソリパンチ」(海老原博幸)や「ハンマーパンチ」(藤猛)を思い出す。「ノックアウト・ダイナマイト」(内山高志)に「神の左」(山中慎介)、「黄金の拳」(村田諒太)は記憶に新しい。強打を誇ったプロボクシング世界王者たちの異名である。
そんな剛腕王者たちの輝けるKO記録も、元4団体統一世界バンタム級王者の井上尚弥(30=大橋)の数字と比較すると、かすんでしまう。総試合数に対するKO勝利の割合を算出するKO率は87・5%。2位(平仲明信の81・8%)以下をはるかにしのぐ。
特筆すべきは世界戦でのKO率。19勝(17KO)で89・4%とさらに上がる。世界トップレベルを相手に、しかも階級を上げてこの数字は信じ難い。25日に4階級制覇を目指して挑む、WBC、WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトン(29=米国)をKOで倒せば、90%の大台に到達する。
通常、階級を上げればパンチの威力は薄れるといわれる。対戦相手の体格と耐久力が1段階上がるからだ。井上は逆だ。階級を上げるたびに、パンチ力も増している。世界戦の戦績を比較してもライトフライ級とスーパーフライ級時代は10勝(9KO)で、バンタム級転向後も9勝(8KO)とほとんど変わらない。
要因について大橋秀行会長はこう分析する。「バンタム級時代は(5階級上の)スーパーライト級の相手をスパーリングで倒していた。それほどパワーがある。それが減量して試合に臨むと、スパーリングでの力を出し切れていなかった。つまり階級を上げるほど彼本来のパワーとスピードが生きる。特殊な選手だと思う」。
2階級制覇を達成した14年12月のWBO世界スーパーフライ級戦では、2回にKOされた王者ナルバエス(アルゼンチン)陣営が、試合直後に「グローブを確認させろ」と井上に要求してきた。1度もダウン経験のない王者にとって、2階級下から転級してきた井上のパンチ力がよほど信じられなかったのだろう。
世界を代表する強打者のKO率を調べてみた。元世界ヘビー級王者マイク・タイソン75・8%。同王者ジョージ・フォアマン(ともに米国)83・9%。元世界ミドル級王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)82・9%。井上尚弥の「モンスター」の異名が、いよいよ説得力を増してきた。【首藤正徳】(終わり)
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