大関稀勢の里(29=田子ノ浦)の悲願が遠のいた。横綱日馬富士にはたき込みで敗れて2敗目を喫した。横綱白鵬が大関豪栄道との1敗対決を制したため、自力優勝の可能性が消滅した。残り3日間、奇跡の逆転優勝に望みをつなぐためにも、最後の力を振り絞りたい。

 この1敗の重みが、痛いほど分かっていた。腹にべっとりと砂をつけて支度部屋に戻った稀勢の里は、久しぶりに報道陣に背中を向けて座った。険しい形相を見られることを拒んだ。その背中に、自身への怒りと悔しさがあふれていた。叫ぶことこそなかったが、問いかけに答えることもなく、静かに会場を後にした。

 3力士が1敗で並んだ12日目。目の前で豪栄道を退けた白鵬から、力水を受けた。勝ち残りで控えに座ったその横綱の視線が背中に粘りつく。重圧が高まる中での立ち合い。日馬富士の鋭い当たりに突き放され、いなしで崩すも、すぐ立て直された。焦って前に出たところを、頭を押さえつけられる。館内の悲鳴とともに前に落ちた。初めて先頭を明け渡した瞬間だった。

 白鵬らに並ばれて「ここからが大事。悔いが残らないよう、思い切った相撲を取っていきたい」と話した朝だったが、終盤に入って痛い連敗。自力優勝が消滅した。ただ、八角理事長(元横綱北勝海)は「白鵬に、負けたら決定戦があるとプレッシャーを懸ける意味でも、きっちりついていくことが大事だ」と、気持ちの切り替えをうながした。

 何度も賜杯に近づきながら苦杯をなめてきた。それでも「あきらめたら、それで終わり」と腐らず、愚直に上だけを見つめてきた。15年目の春は、まだ終わっていない。逆転優勝への望みをつなぎ、来場所を綱とりとするムードを高めるためにも、心が切れてはいけない。【今村健人】