プレーバック日刊スポーツ! 過去の7月18日付紙面を振り返ります。1994年の1面(東京版)は大関武蔵丸が外国人として初の快挙、全勝で初優勝を飾りました。
◇ ◇ ◇
<大相撲名古屋場所>◇千秋楽◇17日◇愛知県体育館
大関武蔵丸(23=武蔵川)が、全勝で初優勝を飾った。千秋楽結びの一番、大関貴ノ花(21=二子山)を左からの豪快な下手投げでたたきつけた。1989年(平元)秋場所の千代の富士以来5年ぶりの全勝優勝で、全勝初Vは87年(昭62)夏場所の大乃国以来、史上6人目で、外国人としては初の快挙だ。武蔵丸は続く秋場所(9月11日初日、東京・両国国技館)で初の綱とりに挑む。
武蔵丸 15勝(下手投げ 23秒0)貴ノ花 11勝4敗
武蔵丸の大きな目が、真っ赤に充血していく。涙は出ない。だが、快挙をなし遂げた喜びと興奮が、血を逆流させた。「うれしいよ」を繰り返すばかりで、後は言葉にならない。東の支度部屋で初体験の優勝インタビュー、荒い鼻息だけが差し出されたマイクに吹き付けられた。
感動のフィナーレが、武蔵丸の名古屋を締めた。緊張でガチガチの両手が伸びず、組んでしまった。貴ノ花の右前みつを引き付けての寄りに、体も起き上がる。大ピンチに「もう何でもいいス。思い切っていくだけよ」と開き直った。詰まった土俵際、ねじ込んだ左から、パワーにものをいわせた下手投げ。貴ノ花を裏返しにぶん投げた瞬間、武蔵丸は大相撲の歴史にその名を刻んだ。5年ぶり、そして外国人初の全勝優勝。敬愛する小錦、横綱曙も手をつけていない真っさらな夢を、武蔵丸が手にした。
賜杯は29キロと聞かされていたが、実際はさらにズッシリ重かった。「全勝優勝素晴らしい? ハイ、素晴らしいですね」。質問通りに答えることしかできない武蔵丸の思考回路は、錯乱状態。表彰式、記念撮影、優勝パレードと、大忙しの初体験に、感激に浸る余裕もない。入幕以来、負け越しなしで初優勝を飾ったのは一場所15日制(49年夏)になって以降、史上初の快挙だ。さらに、慌てふためいてパレードに飛び出した武蔵丸を空が大歓迎だ。突然の大雨、暴風、稲光におびえながら宿舎へ、ずぶぬれのがい旋パレードとなった。
89年秋場所、千代の富士が果たして以来の全勝優勝。それはくしくも、武蔵丸が初土俵を踏んだ場所だった。5年間30場所、武蔵丸にとっては長い時間だった。部屋でただ一人の外国人力士。言葉が通じず、武蔵丸は孤独だったが、その寂しさに逃げることなく、正面から立ち向かった。
まだ新弟子のころ、部屋に大量のサバが差し入れられたことがあった。「オレがやるよ」と、包丁を握り締めて駆け寄ってきたのが武蔵丸だった。好奇心で見守る目の前、鮮やかにサバを三枚におろしてみせ、周りを驚かせた。
大関昇進の伝達式で「日本の心を持って相撲道に精進します」と誓った。角界に入ると決意したとき、武蔵丸は日本人になった。日本の文化に溶け込もうと、ハワイで魚のさばき方も覚えてきたのだ。この真っすぐな心が5年後、偉業へとつながった。
昨年夏場所から7場所、賜杯は曙と貴ノ花の手しか触れられなかった。その「曙・貴」時代に、武蔵丸が風穴をあけた。来場所は綱とりだ。「一生懸命頑張るよ」と、大きな鼻を膨らませた武蔵丸が、大相撲新時代の幕を開けた。
◆全勝優勝メモ 1989年(平元)秋場所で千代の富士が達成して以来、武蔵丸は5年ぶりに記録した。58年(昭33)の年6場所制以降、全勝優勝は武蔵丸を含めて15人がなし遂げ、延べ39回。そのうち、大関での全勝Vは、73年夏場所・輪島、82年秋場所・隆の里、84年名古屋場所・若島津、87年夏場所・大乃国に次ぐ5人目で、名古屋で2回記録されている。
◆スピード優勝◆(初土俵以来)
-----------------
シコ名 所要 V場所 地位 成績 最高位 通算V
-----------------
(1)2貴ノ花 24 92年初 東前2 14・1 大関※ 5回
(2)曙 26 92年夏 西関脇 13・2 横綱※ 7回
(3)武蔵丸 30 94年名 西大関 15・0 大関※ 1回
(4)3若ノ花 31 93年春 東小結 14・1 大関※ 1回
(5)北の湖 43 74年初 東関脇 14・1 横綱 24回
(5)北勝海 〃 86年春 西関脇 13・2 横綱 8回
(5)旭富士 〃 88年初 東大関 14・1 横綱 4回
(8)北天佑 44 83年夏 東関脇 14・1 大関 2回
(9)小錦 45 89年九 西張大関14・1 大関※ 3回
(10)琴錦 46 91年秋 東前5 13・2 関脇※ 1回
-----------------
【注】所要は初土俵以来、場所目。※は現役
◆過去の全勝での初優勝◆
----------
場所 力士名 地位 通算 最高位
----------
53年夏 時津山 前6 1 関脇
54年初 吉葉山 大関 1 横綱
57年九 玉乃海 前14 1 関脇
82年秋 隆の里 大関 4 横綱
87年夏 大乃国 大関 2 横綱
----------
【注】一場所15日制(1949年夏)
以降。通算は幕内優勝回数
※記録や表記は当時のもの

