大相撲の貴乃花親方の行動が、日馬富士殴打事件の騒ぎを、より大きくスキャンダラスな方向に長引かせてしまっています。

 警察とは別に、組織として全容解明を目指す日本相撲協会の危機管理委員会による貴ノ岩関への聴取協力の要請を、貴乃花親方は拒否しました。日本相撲協会と完全に決裂してしまいました。

 被害届を出した警察に真相究明を託すのは分かります。他人の大切な子供(貴ノ岩)を預かった親方として、その子を傷つけられたことに憤る気持ちも分かります。

 ですが、自分と被害者の貴ノ岩も、所属する日本相撲協会を敵視する数々の行動は、やはりいただけません。しかも、貴乃花親方も日本相撲協会の理事。みんなをまとめる役割があり、自分の感情や正義論だけで、物事を進めたりする立場ではありません。

 そもそもは、どんな理由であれ、暴力をふるってしまった日馬富士が悪いわけですが、そのことが霞んでしまうほどに、貴乃花親方の不可解な一挙手一投足に衆目が集まるようになってしまいました。

 この事件の結末は、いまだに読めません。ただ、加害者の日馬富士の処遇はもちろんですが、こうなってくると貴乃花親方の方も、どうなるか分からなくなってきました。

 幕内優勝22回の大横綱。正直、無難に親方業をこなしていたら、近い将来、黙っていても理事長の座は、回ってきたでしょう。それなのに約2年前、貴乃花親方は、クーデターまがいの強引なやり方で、日本相撲協会の理事長選挙に立候補しました。

 この時も、土俵の上では正々堂々だった元横綱とは思えないような裏工作の話が、たくさん漏れ伝わってきていました。

 そして最後には、大相撲の本場所中にもかかわらず、評論家を務める新聞紙上で、現役力士の取組の記事を隅っこに追いやる形で、理事長選に立候補した言い分を主張したことがありました。

 横綱時代から「神聖な土俵の上が全て」と、美しい理想を唱え続けていた人とは思えない奇行に、元大相撲担当記者だった私は驚き、がっかりしました。

 今回も、同じ形にしてしまいました。土俵上の優勝争いはそっちのけで、この騒動ばかりのニュースです。貴乃花親方は、本当に今でも「土俵の上が全て」と思っているのでしょうか。こんな大騒動にした今、その理想論を胸を張って言えるのでしょうか。

 日本相撲協会の理事長とは、時には自分の部屋のこと以上に、角界全体のことを優先せねばならない立場です。自分のことだけでなく、角界全体を考えなければなりません。意見の合わない人、性格が合わない人…。そんな人たちとも根気よく向き合って、組織をまとめなければなりません。

 平成の大理事長だった北の湖さん(享年62)、昭和の大横綱大鵬さん(享年72)。おふたりは、若かりしころの貴乃花親方に目をかけていただけに、悲しい現実です。