韓国映画「ヒマラヤ 8000メートルの絆」(一部地域で公開中)のイベントを取材した縁で、探検家の南谷真鈴さん(19)をインタビューする機会があった。

 今年7月、7大陸最高峰を日本人最年少で制覇したばかりの早大2年生だ。仮に「探検家」としたが、本人は「探検家とか、登山家とか意識したことはありません。まだ学生ですから」と笑う。

 父親の仕事の関係で延べ12年間を海外で過ごした彼女は、外向きに生きてきたつもりでも島国根性の抜けきらないわが身には刺激的な感覚の持ち主だった。

 「南谷さんがいきなり編集部にやってきて『エベレストを目指したい』と屈託のない顔で言ったときは、正直何言ってんだろうこの子、と思いましたね」と振り返るのは山の専門誌「ワンダーホーゲル」の吉野徳生編集長(50)だ。当時17歳の高校2年生。ギャル語を操る今どきの女子高生とはかなり毛色は違ったのだろう。

 南谷さんはそんな調子で、登山関係の企業各社に「飛び込み営業」をかけ、遠征費用のスポンサーを開拓した。両親は「挑戦するのはかまわないけれど、やるなら自分の力で」という姿勢を貫いたそうだから、なんのお膳立てもなく、一から独力で段階を踏んだ末の7大陸制覇だったのだ。

 このバイタリティーには、長い海外経験を生かし、いつの間にか一線に躍り出たディーン・フジオカ(36)のそれに通じるものがあると思った。

 南谷さんに「世界のいろんなところで紛争が続いていて、今、この瞬間にも命の危険にさらされている難民がいます。平和な日本のありがたみが分かっている人が少ない気がします」などと言われると、国際感覚の欠如を叱られているような気になる。確かに頭では分かっていても、世界の惨状を実感していないというのが正直なところだ。

 翻って国内に目を向ければ、高齢化による労働人口の減少や、人口そのものの減少で、今後の移民増加は必然、必須の流れだ。日本社会がより国際化、多様化する中で南谷さんやディーンのようなボーダーレス感覚こそ求められるものに違いない、としみじみ思う。

 一方で、先の安倍首相の訪問で改めてスポットが当たったキューバの現状に、国際化ばかりではない「島国」の生き方が見えてきて、少しばかりホッとした。

 これまで見た映画の中には「老人が元気な国」というイメージがあった。ヴィム・ヴェンダース監督のドキュメンタリー「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」(00年)は、音楽あふれる街中の風景が映し出した。巧みに楽器を操るシニアたち、歌声にも張りがある。マイケル・ムーア監督の「シッコ」(07年)では、医療制度をはじめとした社会保障の充実が紹介された。

 今回のニュース映像からは、世界から孤立しながら行き着いた「ガラパゴス的調和」が印象に残った。62年のキューバ危機で西側社会から経済封鎖され、91年のソ連崩壊で後ろ盾を失った島国キューバが、自力で市民社会を維持せざるを得なかった側面である。

 クラシックカー・レベルの超型落ちアメ車が現役で活躍していたり、使い捨ての100円ライターも、街中にガス注入を生業にするおじさんがいて、再利用されている。日本の「もったいない」レベルを大きく超えているのだ。

 他国ならスクラップ級の車からライターまでがきっちりと手入れされ、文字どおりの有効活用される様子は、使い捨て前提の新品よりよほどオシャレに見える。背後に心地よいキューバン・リズムが聞こえると、そんな「鎖国」状態も悪くないと思えてくる。

 決して豊かではない環境で、良くも悪しくもカストロ前議長のカリスマ性、もともとのラテン系のノリがあってこその輝きなのかものしれない。

 日本がそんな「ガラパゴス的調和」に戻れないことは、頭だけでなく実感として分かっている。それでも、いまさら南谷さんやディーンのような国際人になれない身としては、キューバの「幸せのかたち」を憧れの思いで眺めてしまうのだ。【相原斎】