年齢のことを言ってはいけないのだろうが、50歳になったジェニファー・ロペスのポール・ダンスに驚かされた。息をのんだ。

「ハスラーズ」(2月7日公開)は、08年のリーマン・ショックをはさんだニューヨークの変貌が背景になっている。その前のバブリーな喧騒(けんそう)とその後の殺伐とした様子のギャップはあまりに大きい。

幼い頃に母親に捨てられた中国系女性デスティニー(コンスタンス・ウー)は、同居する祖母を養うためストリップ・クラブに働き口を求める。そこでは、トップダンサーのラモーナ(ロペス)との出会いをきっかけに景気絶頂のウォール街の紳士たちが次々と顧客になり、一転ぬれ手で粟(あわ)の生活が始まる。が、リーマン・ショックのその日から様相は一変。安価でセクシーなサービスを提供するロシア人ダンサーたちに取って代わられてしまう。

シングルマザーのラモーナはデスティニーら仲間を募り、依然として裕福な暮らしを続けるウォール街の生き残り組から金をむしり取る計画を実行するが…。

実際の事件をもとに取材を重ねた脚本・監督のローリーン・スカファリアは「彼女たちのすべてに共感できる。孤独との格闘、母であり、娘であり、友であり…立場の違いを超越する絆でつながっている」と話す。リーマン・ショック後の彼女たちの行為は明らかな犯罪だが、スタッフもキャストも確信犯的にその生き方を肯定しているところがこの作品のミソになっている。リーマン・ショックの元凶でありながら、のうのうと暮らすウォール街の住人と、それに立ち向かう女性たちという図式だ。

というわけで、冒頭に書いたロペスの生き生きとした姿には物語の流れを象徴する意味があり、圧倒されて当然というわけだ。「クレイジー・リッチ」(18年)に主演したウーのきゃしゃボディが横にあるので、その肢体は迫力倍増に映る。その重量感のままポールをスルスルと登ってみせるから文字通りスクリーンがせまく見える。

彼女が演じるラモーナの印象的なセリフがある。

「ほとんどの男が女にだまされたことを認めない。彼らのプライドが邪魔をして詐欺を通報できないのよ。彼らは女のことを知ろうともしないから。ただ、自分の理想の女を求めているだけ。まさか自分がだまされるとは思ってもいない。だから不意を突かれるの」

ちっぽけなプライドにすがるわが身を思わず振り返る。ラモーナには、世の中をむちゃくちゃにしたウォール街の勝ち組は許せないという理屈がある。一方的ではあるが、胸を張るロペスの姿には説得力がある。

不思議な爽快感のある作品だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「ハスラーズ」の1場面 (C)2019STXFINANCING,LLC.ALLRIGHTSRESERVED.
「ハスラーズ」の1場面 (C)2019STXFINANCING,LLC.ALLRIGHTSRESERVED.